ISO9001を取得しました。
ISO9001:2000
今年の当院のトピックスとして、新しい創傷治療と褥創のラップ療法を取り入れたこと、7月にISO9001を取得したことがあげられますが、前者は症例を蓄積して来年にでも書くことにして、今回はISO9001について書きます。
★ISOって?
馴染みは薄いことと思いますが、ISO9001は品質管理及び品質保証のための品質マネジメントシステムで、ISO(国際標準化機構:本部ジュネーブ)によって制定された国際標準規格です。
製品やサービスをお客様に提供している組織に用いることができる「仕事の進め方」に関する規格で世界共通ルールです。
ISO9001が品質マネジメントシステム、ISO14001が環境マネジメントシステムです。そのほかにもいろいろなISO規格があります。医療機関でもISO9001の認証を受けるところが増えてきました。診療所では歯科・健診センターを除くと全国でまだ20施設くらいだそうです。
★ISO認証を受けようと思うまで。
日々診療所で業務をしておりますが、どうせするなら自分の納得できるいいものを提供したいと思うようになります。行き着くところは顧客満足というところで、医療をサービス業としてとらえると診療所にとって患者はまさに顧客なわけで、顧客満足のない診療所は今後存続しないのでは、と思えるようになりました。
そこで、自分の納得する方法で診療所を運営して、診療所が提供する医療サービスについての品質を高め、顧客(患者)満足につなげることを目標として、診療所業務のマニュアルを作成しようと思い立ちました。
いろいろ調べていくうちにISOの存在を知るようになりました。病院には病院機能評価というのがありますが、診療所の機能評価はありません。ISOは診療所にとっては機能評価と同等の位置をしめるものと考え、ISO9001を取得することを決めました。昨年の4月のことです。
★ISO認証への取り組み
全くのはじめての経験ですので、コンサルタントをお願いすることにしました。
昨年7月に職員を集めてISOを取得すると宣言。職員を事務部と看護部に分け、それぞれ管理責任者をおいて取り組みを始めました。
具体的には診療所の仕事を、ISO 9001に決められた規格に基づいて文書化するところから始めます。ISO 9001の要求事項がたくさんありますので、その要求事項を満たすように品質マニュアルという形式で文書化します。品質マニュアルの中の当院の品質方針(診療所の理念)は抜粋して、貼り出しています。この方針は、自慢になりますが、ISOの審査員から高い評価をいただきました。
その品質マニュアルが出来たら、診療所の皆がマニュアルに準じて実践して記録を残し、悪いところは改善していこうということになります。
記録ですが、出入り業者の評価、ヒヤリハットの作成、患者さんにアンケートをお願いして集計、クレームを聞く、医療器械の保守点検、職員の評価・教育など多岐にわたります。
記録は書式に準じて保存し、予防処置、是正処置が必要なものについてはその都度作成しスタッフに伝え、手順が変わるのなら改訂をかけます。スタッフ同士でおたがいを評価する内部監査を経て、今年の7月3・4日に審査を受け、7月末に認証を受けました。
★ISO取得のメリット・デメリット
何のメリットがあるのか、というところを書いてみます。
1. 「お客様の期待やニーズに応えてくれる安心できる診療所である」 と宣言できる。
認定を受けるのですから、申請があったら誰にでもこの認証を与えられるのではありません。所定の手続きに従って審査を受けて合格する必要があります。
だから、ISO9001認証取得診療所とは、「顧客の期待やニーズに応えてくれる安心できる診療所である」 ことを自分で宣言して、手順を作って文書化して、それを実践していることを審査を受けて合格した優良企業と言うことが出来ると考えています。広告にも出せるようです。
2. 院長である私の考えがスタッフに伝えやすくなった。
月に一度の業務改善に関するミーティングをもち、年2回の内部監査、年一回のシステムレビュー、サーベイランスなどを乗り越えていくので、スタッフとのコミュニケーションがとりやすくなります。
3. 日常業務の標準化ができる。
業務の内容を手順書の形でまとめており、改善がかかれば改訂していきます。
業務を標準化しやすい、人がかわっても同じことができるというメリットもあります。最近では抗菌剤注射のアナフィラキシーショック時の対応の手順書を看護師に作ってもらいました。
4. 業務の継続的な改善ができる。
アンケート、ヒヤリハットなどで、業務の見直しができるようになりました。
ISO9001の考え方では、アクシデントは個人の能力によるのではなく、システムを見直すことにより防げるのではないか、という是正処置が重視されます。
ISO施行後一度看護師が採取した血液を別の患者のスピッツに入れて検査に提出するというアクシデントがありました。
これも是正処置をかけ、患者氏名の書いたスピッツを予め準備し、そのスピッツを患者本人に確認してもらってから採血し患者の目の前でそのスピッツに血液を移すという方法に変更しました。
また、職員から、“先生もこれ、ヒヤリハット書いてください“という突っ込みもはいるようになりました。
いいことだと思っています。
このようなアクシデント、クレームを利用して業務改善につなげるようにしています。
継続的業務改善がISO 9001認証の更新には義務付けられていますので、今後内部の監査とサーベイランスと呼ばれる一年に一度の審査機関による審査を受けなくてはいけません。
デメリットはなんと言っても手間と費用がかかることでしょう。
要求事項に照らし合わせながら品質マニュアルをつくるのはコンサルタントがついているとはいえ、結構面倒です。また多くの記録・改定歴の保存文書化が要求されます。さらに、ISOにはそれなりの費用がかかります。私の場合コンサルタントをお願いしましたので、その費用+認証に関する費用で年間普通乗用車1台分くらい、年間維持費用は軽自動車一台分くらいはかかります。
上記のようなデメリットはありますが、業務改善ツールとして、ISO 9001はおすすめだと思います。
もし興味がある方がおられましたら、細かいノウハウは個別にお知らせしますので、メール下さい。うちと同じ小さな診療所なら私がコンサルタントになって、ISO 9001の取得をサポートすることも可能かもしれません。折角手間と時間をかけて取得したのですから、当院においてはなんとかこのシステムに乗って、診療所の業務改善を継続していき、ISO 9001の認証を維持して行きたいと考えています。
2005.01