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開業医生活3周年

早いもので、私が川崎医科大学消化器外科を退職して3年が経過した。退職時には角田先生をはじめスタッフの先生方にご迷惑をおかけしたが、今は消化器外科も学生に人気の講座となり、診療も手術も充実しているとお聞きし、嬉しく思っている。

私は平成12年8月末退職であったが、退職時というか開業時、診療所の運営など何の知識もないまま大阪に帰ってきてしまった(診療所開設の時期のことはジャミックジャーナルをご参照頂きたい http://www.jamic-net.co.jp/general/bn/0106/drvis1.asp)。

開業後、いろいろまわりを見ながら、診療所のIT化、在宅医療、病診連携、診療の質の向上を自分のテーマとして自分のスタイルを作ってきた。患者数のことはともかく、自分のしたかったことはおおむね達成し、結構満足のいくシステム・診療内容となっていると思っている。自画自賛と言われるのは承知の上で、上記のテーマに沿って3年間のあがきをまとめてみることにする。

診療所のIT化

先に申し上げた通り、私には開業時、何のビジョンもなかった。ただ、退職一ヶ月くらい前からかかりつけ患者のデータ全てをデジタル管理したい、とはおぼろげながら考えていた。あまり覚えている人はいないと思うが、自分の送別会での席でもこれは申し上げた。そして、それは今ほぼ実現できている。

開業当初は手書きカルテ、手書きレセプトだった。複雑怪奇な保険点数を事務の参考書片手に自分もレセプトを作成していた。しかし次第にレセプト枚数が増えてくるとレセプト作成がおっくうになってきた。で、レセコンを買おう、と思って調べてみると、異様に高価である。それなら自分でつくってみよう、とマッキントッシュのファイルメーカーで組みだしたが、あまりの複雑さに約一ヶ月で断念した。それならこの際電子カルテにしよう、と思ってこれも資料を集めてみた。ORCA(Online Receipt Computor Advantage)と呼ばれる日本医師会のオンラインレセプト請求ソフト(http://www.orca.med.or.jp/)が完成するらしいので、まずこれを念頭にいれて機種を選定した。マッキントッシュユーザーだったので、ORCAとこれに連携できるWINEというマックのソフトをまず選んだ。しかし、ORCAはリリースはされたものの2年前は全く使い物にならなかった。現在ではかなり実用に耐えるようになっており、今システムを考えたらORCAとマックの電子カルテを組んだかもしれない。でも、2年前、マックとORCAは選択肢から消えた。

次にいろいろ調べてみたが、一番使いやすそうなのはダイナミクスというウィンドウズのアクセス(データベース)上で動く電子カルテだった(http://www.iijnet.or.jp/hist/dyna/、作者のHP: http://www1.doc-net.or.jp/~yoshi/dynatel.html)。平成13年12月に試用版を手に入れ、友人にウィンドウズのマシンを組み立ててもらい、LANもついでに組んでもらった。試しに使ってみると今まで何種類か使った電子カルテに比べ格段に使いやすくよくできていたので、導入を決定した。3ヶ月の練習期間を経て、平成14年4月初めてのレセプト提出。あっけないほどうまくいった。平成14年6月からは診療上の記載もPC上で行うようにして、完全ペーパーレスで運用した。しかし、いろんな文書は残している。今私は診療中あまり字を書くことがなく、PCの画面と患者の顔を交互にみながらキーボードを叩いている。さらに、自動問診機(http://www.credo-medica.co.jp/index.html)、インターネット予約システム(http://www.majima-clinic.jp)などを取り入れ、快適に稼動中である。

診療中は私一人が問診、所見、アセスメントを入力、更に薬、注射、検査、処置も私が入力、処方せん、請求書と領収書、本日の診察の説明の文書も私が入力してなおかつ出力している。この作業は実際に診察する患者数が一時間に10人を超えると私にとってはかなり苦しくなる。コンスタントに患者数がこの人数以上になる場合は医療秘書を隣において、口述筆記か殴り書きを書き写してもらうかになってくると考えている。まだこの患者がこの人数に達していない、ということだが、まぁもう少し。レセプト入力業務も診療と同時にできてしまうため、月末のレセプト提出時はプリンターを眺めているだけである。電子カルテは定型ができてくれば、たとえばDO処方などかなり楽となる。おそらくカルテは今後電子化が標準となってくるので、若い先生方は糸結びの練習の他に、ブラインドタッチ(キーボードを見ずに文字を入力する)を練習する必要があると考えている。

更に、平成14年の8月からRS_Baseというファイリングソフトを手に入れ、レントゲン、心電図、血液検査、他院からのCT、MRI画像、内視鏡、超音波、顕微鏡写真、デジカメ画像、他院からの紹介状なども全部デジタルデータとしてファイリングできるようにした(http://izumi.cside8.com/RSB_manual/Dr_Wada/index.html)。これによりほぼシステムは完成した。残されているのは聴診所見などの音声データ及び動画のファイリングであるがあと半年もあれば完成しているはずである。患者ごとにデータがファイリングされるので、研修医諸君の症例のまとめなどにも最適のシステムと思う。特筆すべきはこのソフトが無償で提供されていることである。興味のある方は個人メールででもお問い合わせ頂きたい(tmajima@office.so-net.ne.jp)。

この電子カルテとファイリングソフトのシステムは安価で大変よく出来ており、今後開業される方でPCに抵抗のない方には是非お勧めしたいと思っている。診療所の見学を受け入れており、今まで電子カルテのメーカーから紹介されて、10人くらいは見学に来られた。その後見学者全員が私と同じシステムを採用されている。

病診連携

病院を自分の都合のいいように使おう、病院にとって都合のいい診療所になろう、と考えている。開業時の暇なときは、近くの病院巡りをして、研修医向けの講義などに出席していた。一番近くにあった岸和田徳洲会病院では、院長にお願いして、肛門科外来を担当させていただいた(http://www.tokushukai.or.jp/kishiwada/home/koumon/koumon.htm)。輪ゴム結紮、パオスクレーによる硬化療法、PPHを含む手術などをさせて頂いている。手術室の雰囲気を味わえるのと病院の先生がたと顔見知りになれるのがメリットであった。第一例目のミリガンモルガンの症例では、手術中の心筋梗塞からの心停止という滅多にない経験までさせていただいた。幸いこのケースはPTCAで立ち直り健在である。

一般診療においては川崎医大での他科コンサルト及び放射線検査依頼と同じ感覚で、近隣の病院の専門医に紹介状を書いている。この地域の医療圏で、この疾患ならこの先生、といったリストを作成しており活用している。このリスト作成のためというわけではないが、病院の研究会、医師会主催の研究会など結構まめに出席して情報を得た。また、私の地域の中核病院は紹介患者を優遇してくれるシステム(待ち時間の軽減、送迎サービスなど)をとっているところが多く、重宝している。

近くの開放病棟をもつ病院は登録医になり、いまでは6つの病院で登録医となっている。計30床のベッドをもっているのと同じことかな、と考えているが、まだ開放病棟を使用したことはない。

もうひとつ、インターネットを介した紹介状のやり取りシステム(OCHIS,http://www.ochis-net.jp/)にも参加しているが、まだ登録病院が大阪府下で5つと少なく、私も一回使用しただけである。これも便利なシステムで外来診察の前夜に患者の紹介状、画像などを見ることができたら紹介される病院の先生も予習ができて楽だろうとは考えているのだが・・。なんとか使用してくださる病院が増えるよう営業活動をしているところだが、残念ながらまだ病院側のレスポンスはあまりよくない。

在宅医療

川崎医科大学勤務時、受け持ち患者の胃癌の末期の方がIVH,ドレナージをつけながら新築まもないご自宅に帰り、総診が訪問診療に行き、ご自宅で亡くなったという症例を経験した。そんなことも出来るんだ~という意識はあったので、自分の父親が胃癌末期になったとき、病院から家に連れて帰ろう、と思い立ち退院させた。10日間ほどであったが、自分の好きな家具に囲まれ、時には自分のパソコンも触って、結構好きなように生活していた。痛みもなく穏やかな死を迎えたときはこれはいいな、というか、商売にしてもいいかな、と思った。それで在宅医療を志したことになる。

近隣の病院とか看護ステーションなどに営業に回って(丁度ジャミックジャーナルが出た頃だった)、ターミナル症例などを紹介してもらえるようにした。3年間で21名の患者をご自宅で看取った。患者の家族にとっては、おおむね満足度は高いものと自負している。在宅医療をしだしてからは、麻薬の使い方がうまくなった。そして、その経験は昨年の9月には川崎医大同窓会大阪支部でもお話したし、地区の研究会でも発表した(ペーパーにはしてみたいと考えてはいるのだが)。

また、在宅ターミナル症例が増えないのは病院の主治医の先生方の在宅医療の認識が少ないからだと思い、今年に入って“当院の在宅医療の経験より、こんな患者は家に帰そう”という演題名で地域の中核病院に営業に回っている。今まで3つの病院で講演した。反響はまだ実感としては伝わってこないが、地道に営業活動を続ける予定である。今度は大阪市内の大きな病院にも回ろうかとも画策している。

診療の質の向上

病院の先生に自分のデータ・考えを提示して、対等にディスカッションできる開業医を目指している。地域の病院主催の研究会、講演会はできるだけ参加するようにしており、営業のため、呼吸器疾患であろうと循環器疾患であろうとひとつは質問して帰る、ということを自分に義務づけている。あまり呆けた質問をしないように自分では注意しているつもりだが、周囲からはどうみられているかは不明である。さすがに以前専門としていた癌遺伝子の講演には出席しなくなってしまった。

最近、メジャーな疾患には学会が編集したガイドラインがあり、これを参考に診療にあたっている(http://www.mnc.toho-u.ac.jp/mmc/guideline/index.htm)。また今日の治療指針CD、薬剤情報(http://www.pharmasys.gr.jp/psearch/html/menu_tenpu_base.html)をPCの画面上で参照しながらPCの画面上でカルテを書いている。もう手書きの世界に戻れないことはないが、戻りたくない、という心境であり、PCのない環境は今や考えられない。今井先生に教えていただいたTFCというメーリングリスト(本学5期生、田坂佳千先生主宰)などいくつかのメーリングリストでリアルタイムに勉強させて頂いている。このおかげで診療所の医師の孤独、などはあまり感じたことはない。

今度は研修医教育をしてみたいな、と考えており、川崎医科大学の研修プログラムにのせていただけるよう角田先生にアプライしてみた。遠方でだめであったら、阪大とか大阪市立大学、近畿大学など大阪の大学に申し込んでみるつもりである。研修医教育を通じて自分が勉強したい、刺激を受けたい、という希望がある。川崎医大消化器外科勤務の時優秀な研修医にお会いできて、楽しい思いをしたから、というのもあるのかもしれない。今、二つの診察室が使えるよう、新しい診察室を増築中である。

近況及び今後のこと

まだ行列のできる診療所というわけにはいかないが、このスタンスを守って発展させていけば潰れることはないだろうとは考えている。最近自分のかかりつけ患者をリストアップした。登録したかかりつけ患者は慢性疾患をもって月一度は当院で診察を受ける人で、私にメディカルマネージメントをさせてくれる方、つまりは他の医療機関受診は当院の紹介を原則とする、医療データははもちろん薬剤・生活習慣・介護状況・健康食品にまで及ぶ情報をすべて当院で管理、を納得していただける方、とした。風邪をひいたら来院する、という方は現在はリストには入っていないが、適応は今後変わっていくと思われる。患者の囲い込みと非難されるかもしれないが、厚生労働省、日本医師会の提唱するかかりつけ医機能推進運動の一環と考えている。

自分の診療所は地域の病院の先生の間では少しだけ知名度が上がってきたが、まだ地域住民に知られていないという弱点があるので、今後は広報活動や住民対象の健康講座などを予定している。またISO9001を取得すべく準備中である。更には先日講習を受けたACLS(Advanced Cardiovascular Life Support、http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/hp-gm/acls_osaka/)が面白かったので、必要ないことが望ましいのだが、AED(除細動器、http://www.nihonkohden.co.jp/products/emergency/01/aed9100.html)を院内に配置した。来年はACLSのインストラクターデビューをしてみようかと考えている。

こんな感じで日々を過ごしながら、診療所を経営している。以上、ご意見ご批判等いただければ幸いである。

2003.12