ホームドクター通信
2007年11月 No.24
◆当院からのお知らせ


 今年は夏が長く、秋が短かったような印象があります。ここのところ急に寒くなってきました。
師走の声も聞かれ、街はクリスマスの装飾が目立ちだしました。今年も終盤です。


インフルエンザ予防接種中です

忠岡町在住の65歳以上の方は町からの助成があり、1000円で接種しています。期間は12月末までです。
上記以外の方は、大人(中学生以上)2500円、小学生以下の小児2000円です。

今回の医療情報は少し趣向を変えて、注射法について書いてみました。


年末年始の休診について

12月29日(土曜日)まで診療します。新年の診療開始は1月5日(土曜日)からです。
ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。


特定健診について

来年4月から特定健診が始まります。

詳細は現在も調整中(先日も忠岡町と忠岡町の医師との間でミーティングがありました)ですが、始まることだけは決まっています。
メタボリック症候群の発見と保健指導を目的とする健診になります。日本肥満学会は10月19日、内臓に脂肪が蓄積して生活習慣病につながるメタボリック症候群の診断基準の一つで、専門家から数値に異論が相次いでいるウエストサイズ(腹囲)について「当面数値を変える予定はない」と発表しました。学会が定めた数値は男性が85センチ以上、女性が90センチ以上です。これを基準に、特定健診制度が来年度からスタートします。


最近の話題

京都大学のグループがヒトの皮膚細胞からあらゆる細胞に分化できる万能細胞をつくることに成功しました。
皮膚の細胞を取り出して、4つの遺伝子を導入して(原文を読んでいないので、どのような遺伝子なのかはまだ知りませんが)、作成したようで、神経、筋肉、肝臓、心筋などの細胞に分化することが可能であったようです。
自分の皮膚から移植用の臓器が作られる可能性もあり、臓器移植などの再生医療の分野では大きな前進といえそうです。クローン羊のドリーが出たときも結構驚きましたが、今回もかなりインパクトがあり、この万能細胞は追試で確認されたら、ノーベル賞級の研究と思われます。


映画“象の背中”を見てきました。

主人公の年齢設定が自分と同年代のため、自分だったらどうするか、など考えながらみていました。自分が余命を宣告されたら、象のように群れから離れて死に場所を探すのか、家族と一緒に最期を過ごすのか。多分一人離れて、というのはできないんじゃないかと感じました。職業柄(在宅での看取りなどしています)、死について考えることがこの数年多くなってきていますが、この映画は共感できることが多かったです。









◆特集:皮下注射について


 インフルエンザの予防接種などは皮下(皮膚の下の脂肪層)に薬液を注入します。その注射のお話です。

「もんだほうがいいですか?」

「今日は風呂に入っていいですか?」

当院では5年くらい前から「もまない」「風呂はいい」と接種後に説明してきていますので、最近ではあまり聞かれなくなりましたが、標準的な日本人は、注射を打たれると同時に、この2つの質問を発するようにプログラミングされているようです。

さらに、興味深いことに、その質問を受けた医者や看護婦が、「注射のあとは、もまなくてもいいですよ」、「今晩はお風呂も入ってかまいませんよ」と答えると、注射を打たれた人々は一様に怪訝そうな顔をされます。つまり、日本人にとって、注射のあとは「しっかりもむ」、「風呂には入らない」というのが「常識」であり、それを医療者に否定されることがおもしろくないということでしょうか。


予防接種のあとは強くもまないほうが良い。その理由を説明します。

そもそも、注射には薬剤を注入する場所により、「皮内注射」、「皮下注射」、「筋肉注射」、「静脈注射」などの方法があるのですが、予防接種のワクチンは「皮下」に注射することになっています。「皮下」とは、文字通り「皮膚の下」のことで、解剖学の言葉を使えば、表皮と筋肉の間にはさまった、真皮と皮下脂肪を合わせた場所のことです。

皮下注射をすると、ワクチンは注射した部位にしばらくとどまっており、そこからゆっくりと全身に吸収されていきます。
しかし、接種した場所を強くもんでしまうと、皮下組織がダメージを受けて、ワクチンが急速に周囲に拡散してしまったり、血管内に侵入するために、局所反応(皮膚が赤くなる、腫れる、熱をもつ、痛痒くなるなど)やアナフィラキシー(全身的なショック症状など)の発生する頻度が高くなると考えられています。

これが予防接種の後を強くもんではいけない理由です。


日本人が注射のあとはよくもまなければいけないと思うようになったのにもわけがあります。昭和30年代後半ごろからつい最近まで、日本の開業医はかぜの患者さんが来ると、実に気軽に解熱剤や抗生剤の「筋肉注射」を打っていました。0.5ccのワクチンを注射する皮下注射とちがって、このような筋肉注射は1〜2ccの薬剤を腕やおしりの筋肉に入れるので、後からしこりにならないように、「よくもんでくださいね」と指示しなければなりませんでした。

前回の院内報でも書きましたが、現在ではウイルス感染症であるかぜに効果のある注射薬など存在しないという考えかたが主流となったために、このような筋肉注射の機会は激減していますが、そのころ医者や看護婦が行った教育が国民に根強く浸透しており、「注射のあとはしっかりもむもの」という慣習が生まれたものと推測されます。





では注射の後のお風呂はどうでしょうか?

「お風呂に入っていいですよ」と言うと、「注射を打った穴からバイ菌が入るのでは」とおっしゃるかたもあります。このような心配性のかたを納得させるためには科学的な説明が一番。最近読んだ本のなかに、この件についてのすばらしい説明がありましたのでご紹介します。


入浴制限派の言い分は「風呂の水の雑菌が体内に入ると感染を起こす」というもの。この場合の菌は、注射した針の通り道がトンネルのように残り、そこから体内に侵入するしかない。

しかし、物理学の法則にあてはめて考えてみると、風呂のなかで水圧はすべての方向から均等に作用する。つまり、風呂のなかの水圧は人体を押しつぶす方向に作用することになる。一方、「注射針の通った後のトンネル」は、支える構造のない力学的に不安定な穴である。このため「注射針の通ったトンネル」は、入浴した瞬間に、水圧によって真っ先に押しつぶされることになる。すなわち、風呂の水が体内に侵入するよりも早く、「トンネル」がなくなってしまうのだ。

まして、水は粘性の強い液体であり、「注射針の通ったトンネル」のような細い穴に水を入れるためには、極めて高い圧力をかけなければならない。風呂の水を注射器に入れて人為的に注射でもしないかぎり、注射針の穴から風呂の水の雑菌が体内に入ることは不可能である。−(夏井睦「これからの創傷治療」医学書院刊P87より、一部改変して引用)−

私は上記のような詳しい説明はせず、「昔はダメだったけどね〜、今は風呂に入っても大丈夫ってことになったのですよ」という、極めてシンプルながら、理屈も何もない理由のみで、入浴を許可しています。























上腕外側の中ほどは皮下組織が浅く、橈骨神経の走行部位でもあるため、推奨されている接種部位は図の通りです。

インフルエンザの予防接種、確実に発症を抑えるという注射ではありませんが、少なくともかかりにくくなる、発症しても軽くすむという効果はあると考えています。まだの方はお早めに。















◆かかりつけ患者さん募集中

 最近の医療は病気の診療だけではなく、病気の予防、早期発見、初期治療に重点が置かれています。
そのためには、「かかりつけ医」として日常的に気軽に診療や健康診断を受けることができる医院を目指すことが大切だと考えます。
当院では「かかりつけ患者」として下記に同意していただける方を募集しています。興味がございましたらスタッフまでお尋ねください。

何をしてくれるの?

かかりつけ患者になるには?

慢性疾患をお持ちで、月に一度は当院に定期的に受診される方のうち、下記の項目に同意していただける方です。
以上を納得され、書面にサインしていただける方を当院のかかりつけ患者として登録させていただきます。

現在のところ、何かあれば当院に受診される方、住民検診などを当院で受ける方はかかりつけ患者の範疇にはいれていません。風邪をひいたら、今回はあそこの診療所、次回は○○病院という方もご遠慮いただいています。

かかりつけ患者になって総合的に管理してほしいと思われた方がいらっしゃいましたらお気軽にスタッフまでお声をおかけ下さい。



◆編集後記

またまた発行が遅れてしまいました。

もう12月になってしまいますが、毎月発行を目指しています。すぐに来月号にとりかかりたいと思います。

日に日に寒くなってきました。風邪など引かぬようご自愛下さい。

風邪の予防にはうがいと手洗いが大切です。