2022年6月 No.199

ホームドクター通信

当院からのお知らせ

早いもので、もう一年の半分が終わりました。
気象庁は6月29日、関西地方で梅雨明けしたと発表しました。
観測史上最速の梅雨明けだそうです。
とても暑い日が続いています。
熱中症対策を十分にしておかないといけません。

毎年書いていますが、家の中では室温の目安は28度以内。
エアコンを使用して快適に過ごすようにしてください。
直射日光が当たる屋外にいないといけない人は、日陰ができる休憩場所を整備して、氷や水などで身体を適度に冷やすことのできるように。
服装は風通しのよいものを。
軽い運動などして暑さに慣れる「暑熱順化」を汗をかいたら水分・塩分補給もお忘れなく。
経口補水液などで早めに水分補給しましょう。

例年より早く猛暑がやってくることを受けて、関係省庁は熱中症対策としてマスク不要の呼びかけを強めています。
マスク着脱を見極める基準は次の2つと、厚生労働省は定めています。

・距離=目安2mの確保

・会話=ほとんどしない

屋外、屋内に関わらず、この2つの基準が満たされている場合は、マスクをする必要がありません。
学校の体育の授業でも、脱マスクがすすめられています。
しかし実際は、人の目がありマスクは外しにくい状況です。
社会の受容と共感が求められています。

熱中症と同様に虫刺され対策も必要です。
人類一番の外敵 蚊、刺されないように対処してください。
私は今シーズンもイカリジンが配合された虫除けスプレーを使っています。
もう一つ、紫外線対策もお忘れなく。

他人由来のiPS血小板:1人目の移植成功

他人由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)から血小板を作り、血液の病気の患者に血液製剤として輸血し移植する世界初の治験について、再生医療ベンチャー「メガカリオン」は、1人目の移植を実施したと発表しました。
対象となったのは、血液の成分で止血作用を担う血小板が減少し、出血が止まりにくくなるなどした血小板減少症の患者。
同社は京都大のiPS細胞研究財団が作って備蓄しているiPS細胞から血小板のもととなる巨核球を作り、直前に血小板に分化させ、今年4月に輸血して1カ月間経過を観察しました。
結果、有害な現象や副作用はなく、血小板の増加も確認できたとしています。
令和元年には患者から作成したiPS細胞より作成した血小板を移植した経緯があります。
自家移植は、患者自身に由来する血小板であるため拒絶反応がありません。
しかし、自家移植は手間と費用がかかります。
今回の治験では、他人由来の既製品である備蓄iPS細胞から血小板を作り輸血する「他家移植」を行いました。
非常に有用な試みです。
このような技術が進歩すれば、輸血はiPS細胞からの血球で賄うことができる時代が来て、献血が必要なくなるかもしれませんね。

がん治療向けウイルス療法

ウイルスを使ってがん細胞を退治する「ウイルス療法」という新たな治療技術が日本でも登場しています。
がん治療向けウイルス療法は、一般的に治療用に遺伝子を改変したウイルスを注射でがん細胞に直接投与します。
ウイルスはがん細胞の中だけで増殖し、がん細胞を破壊します。がん細胞を破壊後に周辺に広がり、広範囲のがん細胞を除去できます。
正常な細胞の中でウイルスは増殖しないように設計していて、安全性は高いとされています。

国内承認の第1号となった第一三共の「デリタクト(テセルパツレブ)」は、増殖型の遺伝子組み換え単純ヘルペスウイルスI型の癌治療用ウイルスです。
東京大学医科学研究所で開発された脳腫瘍のひとつ、神経膠腫(グリオーマ)のなかでも悪性度が高い患者に対する治療薬です。
薬価は1mL 1瓶 143万1918円に設定されました。
通常、成人には 1 回あたり 1 mLを腫瘍内に投与します。
原則として、1 回目と 2 回目は5~14 日の間隔、3 回目以降は前回の投与から4週間の間隔で投与とのことです。
投与は 6 回までです。

既存の手法では治療が難しいがんの患者にとって、待望の薬となりそうです。
膵癌など治療困難な癌にも応用して頂きたいです。

吸入薬について

前回の院内報では気管支喘息を取り上げました。
そのなかで、治療の中心は吸入薬になっているとお伝えしました。吸入薬使用により、喘息の発作の死亡が減少しています。
今回は、吸入薬にはどんな種類があるのか、吸入方法などについて書いていきます。

呼吸器系の疾患である、喘息、慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:COPD)は吸入薬が主に使われます。
吸入薬には、吸入ステロイド薬(inhaled corticosteroid:ICS)、長時間作用型2刺激薬(LongActing Beta2-Agonist:LABA)、長時間作用型抗コリン薬(Long Acting Muscarinic Antagonist:LAMA)、短時間作用型β2刺激薬(short-acting β2-agonists:SABA)の4種類が主に使われます。
ひとつずつ順に解説します。

吸入ステロイド薬(ICS):喘息治療の中心となる薬です。喘息は気道の炎症で起こります。その炎症を鎮める作用があるのがステロイドです。
薬を吸い込んで直接肺まで届けることで、炎症を抑えます。
商品名:アズマネックス、オルベスコ、キュバール、パルミコート、フルタイドなど

ステロイドを内服すると、胃潰瘍、骨粗鬆症、糖尿病、感染しやすくなるなどの副作用がありますが、吸入の場合は副作用をあまり考える必要はありません。
長期にわたりコントローラーとして使用します。

長時間作用型β2刺激薬(LABA):気管支を拡張させる交感神経を刺激して、気管支を拡げる働きがある吸入薬です。
商品名:セレベント 、オーキシス、オンブレス

長期管理薬として使う場合は、吸入ステロイド薬と併用するのが基本です。副作用として頻度は低いですが、動悸、手のふるえがあります。

長時間作用型抗コリン薬(LAMA):気管支には、気管支の太さを調整するために平滑筋と呼ばれる筋肉あります。
抗コリン薬とは、この気管支の平滑筋を収縮させるアセチルコリンをブロックして、気管支を拡張させます。COPDの場合、こちらが第一選択薬になることが多いです。
商品名:スピリーバレスピマット、シーブリ、エンクラッセ、エクリラなど

緑内障治療中など、眼圧が高い場合は使用できません。前立腺肥大の方も使用できません。

短時間作用型β2刺激薬(SABA):発作が起きたときに使う発作治療薬(リリーバー)です。
気管支を広げる働きがあり、すぐに効き目が現れます。
しかし気道の炎症を抑える働きはないので、喘息の根本的な治療にはなりません。
長期管理薬を使わずに発作治療薬だけに頼っていると、気道の炎症が進み、ぜん息が悪化してしまいます。
商品名:メプチン、サルタノール

以上4種類が基本の吸入薬となります。
吸入ステロイド薬は気道の炎症を抑える薬、他の3種類は気管支を広げる薬です。
LABAとLAMAは気管支を広げる薬ですが、作用機序が違います。
LAMAはCOPDの第一選択薬、LABAは喘息治療薬で吸入ステロイドの次に、ステロイドと併用して使う薬、SABAは発作時の薬というイメージでしょうか。併用して使う場合、最近では配合剤がよく使われます。

喘息の治療で今一番使われている吸入薬は、吸入ステロイド薬+長時間作動性β2刺激薬かと思います。ステロイドで炎症を抑え、LABAで気管支を拡張させます。
商品名:シムビコート、アドエア、レルベア、フルティフォームなど

吸入薬

シムビコートは喘息発作時にも治療薬として使えます。
長時間作動性β2刺激薬(LABA)+長時間作動性抗コリン薬(LAMA)
COPDの治療は長時間作動性抗コリン薬(LAMA)から開始しますが、いまひとつ効果が、という場合このタイプの配合剤を使います。

機序の違う気管支拡張薬の併用で効果のある場合があります。
商品名:ウルティブロ、アノーロ、スピオルト、ビベスピなど最近、ICS、LABA、LAMAの3種類の配合剤も出ています。
COPDに喘息を合併した例に使用します。
商品名:テリルジー、ビレーズトリなど

最近、当院近くの薬局の薬剤師さんに勧められて処方することが何件かありました。
それなりに効果はあるようです。
薬の分類表を提示します。
今、これを見ながら吸入薬の処方をしています。
出典が明らかでなくてすみません。

吸入器の種類

吸入薬にはさまざまなタイプのものがあります。
特にその吸入器(吸入デバイス)は非常に特徴的です。吸入器によって使用方法が大きく異なるだけではなく、薬の形状(粉末・ミスト)に違いがあります。

吸入薬のデバイスを大きく分類すると、
DPI:Dry Powder Inhaler(ドライパウダー吸入器)とpMDI:pressurized Metered DoseInhaler(加圧噴霧式定量吸入器)、SMI:SoftMist Inhaler(ソフトミスト定量吸入器)の3つに分けることができます。

DPI:Dry Powder Inhaler(ドライパウダー定量吸入器)
ドライパウダーという名前のとおり、DPIの吸入器には乾燥した粉末薬が充填されていますので、吸入器を用いて微量の粉末を吸入するということになります。

力強く一気に吸入するのがポイントで、「そばをすするように吸入する」と表現されることがあります。
「粉末を自分の力で吸入する」必要がありますので、吸入する力が著しく低下している人や、本人の理解力が乏しい状態(小児や認知症患者など)の人は吸入が難しい場合があります。
タービュヘイラー:シムビコート、パルミコート、オーキシス
ツイストヘラー:アズマネックス
ディスカス :アドエア、フルタイド、セレベント(丸い吸入器・熱帯魚のディスカスを連想させます)
エリプタ:レルベア、アニュイティ、エンクラッセ、アノーロ
ディスクヘラー:フルタイド、セレベント、リレンザ
スイングヘラー:メプチン

pMDI:pressurized Metered Dose Inhaler(加圧噴霧式定量吸入器)
ガスの圧力でミスト状の薬剤を噴霧する吸入器です。吸入器が薬剤を噴霧してくれるため、吸入する力が弱くても一定量の薬を吸い込むことができます。
しかし薬のタイミングと薬を吸い込むタイミングを合わせる必要があるため、正しく使用するためには一定回数のトレーニングが必要となります。
商品名:アドエア、フルタイド、キュバール、フルティフォーム、オルベスコ
pMDIで薬の噴射と薬を吸い込むタイミングを合わせることが難しい場合に、確実に吸入するための補助具があります。スペーサーと呼ばれます。
マスクタイプとマウスピースタイプがあります。
詳しくはお問合せください。

SMI:Soft Mist Inhaler(ソフトミスト定量吸入器)
ゆっくりと噴霧される吸入液を吸い込むタイプの吸入器です。
レスピマット:スピリーバ、スピオルト

いずれも正しく吸入できないと効果がでません。
薬局で現在指導をお願いしていますので、是非できるようになるまで練習してください。
各吸入器の説明は割愛させて頂きましたが、独立行政法人環境再生保全機構のホームページでは全ての吸入剤の使用法が動画で公開されています。
ホームページを開いてみていただければ自宅でも復習することができます。
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/

20年前、開業したてのとき、岸和田市民病院(当時は貝塚市民病院だったかも)の呼吸器内科・加藤先生(素晴らしい先生でした)の喘息・COPDの講義を初めてお聞きしたとき、アイシーエス、ラバ、ラマ、サバ、、、何のことかわかりませんでした。
帰って調べて、ああ、そういうことか、と納得したのを思い出します。以来、加藤先生がいいと仰られる薬を使ってきました。

今は直接講義をお聞きすることはかないませんが、呼吸器疾患に関しては、あ、加藤先生だったらどれを処方されるかな?など思いながら診療にあたっています。

かかりつけ患者さん募集中

最近の医療は病気の診療だけではなく、病気の予防、早期発見、初期治療に重点が置かれています。

そのためには、「かかりつけ医」として日常的に気軽に診療や健康診断を受けることができる医院を目指すことが大切だと考えます。

当院では「かかりつけ患者」として下記に同意していただける方を募集しています。興味がございましたらスタッフまでお尋ねください。

何をしてくれるの?

かかりつけ患者になるには?

慢性疾患をお持ちで、月に一度は当院に定期的に受診される方のうち、下記の項目に同意していただける方です。

以上を納得され、書面にサインしていただける方を当院のかかりつけ患者として登録させていただきます。

現在のところ、何かあれば当院に受診される方、住民検診などを当院で受ける方はかかりつけ患者の範疇にはいれていません。風邪をひいたら、今回はあそこの診療所、次回は○○病院という方もご遠慮いただいています。

かかりつけ患者になって総合的に管理してほしいと思われた方がいらっしゃいましたらお気軽にスタッフまでお声をおかけ下さい。

編集後記

今年の夏季休暇は8月15日から8月18日(木曜日)までです。
8月19日より通常の診療を致します。
かかりつけの方の薬が休暇中に無くならないように、当方も気をつけますがご自身でも確認するようにしてください。

ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。