2019年 1月 No.158

ホームドクター通信

当院からのお知らせ

新しい年になりました。
とはいえ、もう 1月も下旬です。非常に寒い日が続いています。
インフルエンザが猛威をふるっています。
国立感染症研究所のインフルエンザ流行レベルマップをフォローしていますが、今年度の第3週は赤で示される警報レベルが多くの地域で報告されていて、日本地図は真っ赤になっています。大阪も泉佐野を除いて赤いです。学級閉鎖の報告も多いし、休日診療所の嵐のような外来の話も聞きます。小児をあまり診ない当院でもインフルエンザの方は多いです。まだもう少し続くのでしょうか?早く終息してほしいです。
毎回いいますが、手洗い、うがいを励行してください。マスクも有効です。手で顔・粘膜(眼、鼻、口)を触らないことが大事です。もちろん、感染した人に近寄らないように。インフルエンザウィルスは冷たくて乾燥したところに強いので、湿気を保つことも重要です。加湿器の使用とか寝るときにマスクをする、など。

今期のインフルエンザ治療では一回だけ 2錠(体重80kg以上は 4錠)服用する薬の処方回数が増えました。
一回だけ服用するのはなんといっても手軽ですから。
ゾフルーザという薬です。
特に吸引が苦手な方や、薬を呑み忘れるのが心配な方には適していると思われます。

ゾフルーザはキャップ依存性エンドヌクレアーゼ活性阻害薬といって細胞内でのウイルス増殖を抑制します。従来の薬、タミフル、リレンザ、点滴のラピアクタ、一回吸入のイナビルという薬はノイラミニダーゼ阻害薬といって、インフルエンザウイルスが体内の細胞内に入り、細胞の中で増殖したあと、その細胞外に出ていくところをブロックしています。でも、今度の新薬ゾフルーザは、その細胞内での増殖自体をブロックしてくれるとので、その効果としてウィルスを排出している期間が短いことをメーカーは強調しています。しかし、外出できる期間を短くするものではありません。
対してゾフルーザのデメリット:1番は価格が高いことです。どれくらいかといいますと、1回の治療あたり薬剤費のみで約 4800円 3割負担で約 1500円です。
ちなみにこれまでの薬はイナビル(1回吸入で終了)約 4300円 3割負担で約 1300円)。
リレンザ(1日 2回 5日間・全 10回吸入。約 3000円 3割負担で約 900円)、
タミフル(1日 2回 5日間・全 10回内服。約 2700円 3割負担で約 800円)。タミフルは今季からジェネリック医薬品も発売されていて、こちらは上記の半額(自己負担 400円)程度です。
ちなみに以上は薬代だけなので、実際の窓口での支払いには診療代・検査代、薬局での処方代などがプラスされます。

以前から指摘されていましたが、ゾフルーザで耐性ウィルスが報告されました。薬が効かないウィルスですね。ちなみにタミフルでも報告されています。注意して処方するような文書がでていましたが、実際どう注意するのかは不明。効かないときもある、と説明するのが関の山でしょう。どの薬剤も発熱後 48時間以内に服用することや異常行動に関する注意については同じ。また、薬を呑む期間が違っても法律で決められた出席停止の期間も同じです。インフルエンザの検査で陽性となった場合には、速やかな治療開始としっかりと安静を保つことが重要です。初日・二日目は熱で苦しいでしょうが、いい薬の影響で 3日目以降は楽になる方が多いはず。神様がくれた休養と思って、ゆっくりと過ごしましょう。

膝関節治療で再生医療応用、実用化。

高齢化などに伴う膝関節の病気に企業が相次いで再生医療の応用を計画しています。今回、各社が着目するのは膝関節の病気「変形性膝関節症」。潜在患者数は高齢者を中心に国内だけで 2500万人いるとされています。つまり国民の 5人に一人ですね。高齢者に多く、女性に多い疾患です。これまでは手術で人工関節を導入するしか根治する方法はなく、症状の重い年 8万人が手術を受けていました。あとは保存的に治療しているか、放置しているか。
グンゼは軟骨再生を促す繊維シートを欧州で発売します。手術で軟骨に傷をつけると、軟骨のもとになる細胞や栄養分がしみ出すのですが、シートがそれらを取り込み軟骨を立体的に再生します。日本では 20年にも臨床試験(治験)を始めるとのことです。オリンパスや中外製薬は培養した軟骨を使う方法の実用化を急いでいます。オリンパスは 1月、患者の軟骨を培養し体内に戻す治験を国内で始め、23年 3月までに承認申請を予定しています。中外製薬は国内で最終段階の治験を進めていて、21年にも承認を得たい考えです。旭化成は 18年 10月、京都大学などから、けがで傷ついた軟骨の治療に iPS細胞を使う権利を獲得しています。再生医療は人体の組織や臓器を再生し機能を取り戻す技術です。個人的には iPSを利用して日本が主導する型で研究が進んでほしいです。

心不全

心不全を地域でみる。ハートノートのご紹介

平成31年1月28日、大阪府医師会であった在宅医療における個別研修会・テーマ心不全で座長として参加しました。参加人数がちょっと少なく、そこは残念だったのですが、心不全(特に一回心不全で入院した人の退院後の再発予防)について勉強できたので、今回は、心不全を地域でみるというテーマでお伝えします。

我が国は世界に例のないスピードで高齢化が進んでおり、2025 年には総人口の約30%が65 歳以上になります。それに伴い、心不全を発症する患者数も急速に増加しており、2030 年には130 万人まで増加すると予測されています。この現象は「心不全パンデミック」と称されます。
一番の問題点は、病院のベッドが高齢者心不全患者に占拠され、救急医療が破綻すること。
また患者さんにとっては心不全患者は再入院を繰り返すたびに心機能が悪くなり、予後が不良になることです。この現実を一般の方にも知って頂くために、日本循環器学会と日本心不全学会は、わかりやすい心不全の定義として、「心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、命を縮める病気です。」を平成29年10月31日に発表しました。当院の院内報でも、平成29年11月号に心不全について記載しました。内容としては、高齢者心不全が増える。心不全患者の5年生存率は50%。意外と悪いです。

心不全が悪くなる原因としては、高血圧・心筋症・虚血性心疾患・心臓弁膜症・不整脈・先天性心疾患・感染症などがあります。また、心不全で入院するたびに心機能が落ちていくことが知られています。入院により一時的によくなりますが、心臓の機能がよくなったわけではないので、また悪くなる可能性が高いです。予防が大事。という内容を記載しました。

高齢心不全患者の増加に対して、高齢者特有の病態を理解したうえで、心不全治療に対する共通した認識のもと、急性期病院のみではなく、地域で心不全患者を診ていく必要があります。

忘れてはいけないこととして、

  1. 心不全は治らない病気である。
  2. 心機能は入院すると悪くなる。
  3. 心不全、入院を防ぐのは患者自身

が、あげられています。

 薬物療法 

心不全治療の基本は、薬物治療ですが、特にうっ血治療が重要です。現在第一選択として用いられるループ利尿薬(商品名・ラシックスなど)は、短時間で強力な利尿効果を発揮しますが、低ナトリウム血症などの電解質異常、血圧低下、 腎機能障害をきたし、予後を悪化させます。特に高齢心不全患者は低アルブミン血症や腎機能障害の 合併によりループ利尿薬の効きが悪いことが多く、さらなる利尿薬の増量といった悪循環を引き起こします。 これに対して、バゾプレッシン V2 受容体拮抗薬であるトルバプタン(商品名サムスカ)は、水のみを排泄する水利尿薬であるため、ループ利尿薬で危惧されるような問題点はありません。高齢者に 対する有効性も示されていますが、投与早期に口渇感欠如による飲水不良が高ナトリウム血症を引き起こす可能性はあり、低用量からの使用が推奨されています。サムスカは入院による導入が不可欠で、外来で処方を開始することは保険診療上できません。腎保護のためにも、高用量のルー プ利尿薬が必要な患者に対しては、低用量の水利尿薬を併用し、出来るだけループ利尿薬の使用量を減量することが望まれます。また、うっ血治療後には、心機能の改善と再入院予防、予後改善を目的に 降圧剤のひとつであるレニン・アンジオテンシン系阻害薬やβ遮断薬を導入し、可能なかぎり維持量まで増量します。薬剤の容量設定は病院での入院加療でしていただきます。

 高齢者ほど心臓リハビリテーションが重要 

非薬物治療には、カテーテルによる冠血管形成術(PCI)や、ペースメーカーによる心臓再同期療法(CRT)、 ペースメーカーによる除細動、持続的気道陽圧法(CPAP・AVI)など様々な治療法があり、その中で、患者に適した治療を併用しますが、多くの患者で効果が期待できるのが、運動療法を中心とした心臓リハビリテーションです。特に高齢者の場合、フレイル(虚弱状態)であることが多く、日常生活動作維持の為にも入院中のみならず、外来や施設で心臓リハビリテー ションを継続する事が重要です。また、リハビリに来られることで、定期の診察以外で心不全悪化を早期に発見することが出来ます。

 心不全は自分で管理する 

そして、最も重要なのが患者自身による自己管理です。いくら病状が良くなって退院しても、水分、 塩分、食事、服薬などの管理ができないと、すぐに心不全が悪化し再入院になってしまいます。そのため、病院では入院中、多職種(医師、看護師、薬剤師、理学療法士、管理栄養士など)による心不全に 関する患者教育を行い、退院後の自己管理ができるよう指導を行います。患者が一日に摂取できる水分量、塩分量も退院時に指示されます。また、新たな取り組みと して、「ハートノート」を用いた患者指導、自己管理、病診連携が開始されています。

「ハートノート」は、大阪市内の大阪市立総合医療センター・北野病院・旭区医師会を中心に開発された心不全管理用のノートです。今までも心不全手帳は各病院で独自に患者さんに配布していました。主に体重、血圧、脈拍を記録するノートでした。今回のハートノートは体重を記録するだけでなく、心不全ポイントという新たな発想が導入されています。記載項目としては、体重、脈拍、自覚症状があります。

体重:退院したときの体重を基準体重として、患者個別にこれ以上増加しては危険・受診が必要という体重を設定します。大体3kgくらい増えると危険・受診が必要、と設定しますが、体重の少ない人は1kg増えたら危険と設定される場合があります。受診が必要な体重を超えたら3点つけます。

脈拍は120/分を超えたら4点が加算されます。症状として、横になれない程の息苦しさがあれば、5点です。

その他の自覚症状として、①外出・入浴・階段昇降時の息切れ②むくみがひどくなる③咳④食欲低下の4項目いずれかがあれば1点加算です。ただしこの4項目はいくつあっても1点です。このように点数(心不全ポイント)をつけ、その合計点により、 自分の病状を評価します。3点で一週間以内に受診。4点で当日・翌日受診、5点以上で救急受診を指示しています。5点以上になっての受診では入院もやむなしかもしれませんが、3点4点の間に受診ができて薬の調整ができると入院は回避できるのでは、と考えられます。

急性期病院、慢性期病院、かかりつけ医の情報共有にも「ハートノート」有用で、地域ぐるみで心不全患者を診療していくツー ルとなります。「ハートノート」を用いた取り組みは、大阪市内から徐々に広がりつつあり、泉州地域では府中病院心不全センターでも 2018 年 8 月より導入を開始しました。このシステムが地域に浸透すれば、地域医療に関わる者が同じ基準で心不全増悪を早期に発見し、入院を予防することができ、患者が安心して生活できる場を提供できると考えています。
ちなみに私はサンプルを頂きましたが、まだ患者さんにはお配りできていません。泉州地域でも府中病院心不全センターを退院された方のみ配布されています。1月29日の研修会でも、ハートノートをご存知の方は会場に1名しかおられませんでした。演者の先生方もご存知なかったようです。なかなかよくできたノートなので、普及してほしいです。

 

 

かかりつけ患者さん募集中

最近の医療は病気の診療だけではなく、病気の予防、早期発見、初期治療に重点が置かれています。

そのためには、「かかりつけ医」として日常的に気軽に診療や健康診断を受けることができる医院を目指すことが大切だと考えます。

当院では「かかりつけ患者」として下記に同意していただける方を募集しています。興味がございましたらスタッフまでお尋ねください。

何をしてくれるの?

かかりつけ患者になるには?

慢性疾患をお持ちで、月に一度は当院に定期的に受診される方のうち、下記の項目に同意していただける方です。

以上を納得され、書面にサインしていただける方を当院のかかりつけ患者として登録させていただきます。

現在のところ、何かあれば当院に受診される方、住民検診などを当院で受ける方はかかりつけ患者の範疇にはいれていません。風邪をひいたら、今回はあそこの診療所、次回は○○病院という方もご遠慮いただいています。

かかりつけ患者になって総合的に管理してほしいと思われた方がいらっしゃいましたらお気軽にスタッフまでお声をおかけ下さい。

編集後記

1月31日まで忠岡町の高齢者の方のインフルエンザ予防接種受け付けてます。一般の方のインフルエンザはワクチンがなくなるまで、です。詳しくは受付にお問い合わせください。
忠岡町の住民健診しています。

5月10連休中の診療については、泉大津市医師会の要請・動向を受けつつ検討していきます。ちょっと早いですが、6月8日土曜日は学会の都合で休診します。