2017年 1月 No.134
これを書いているのが一月も終わりかけなので、おめでとうございますというのも憚られますね。
寒中お見舞い申し上げます、がいいかな。
今年もよろしくお願いします。
インフルエンザが流行しています。
うがい、手洗い、マスクの着用、できれば人込みの中に行かないなど注意して、感染しないようにしてください。
病院でのインフルエンザ感染で、入院患者 3名が亡くなったというニュースがありました。
昨年、私の担当していた高齢者の方も、インフルエンザから肺炎を発症してお亡くなりになりました。
インフルエンザは元気な人にとっては寝ていれば治る病気ですが、抵抗力の弱った人にとってはやはり軽視はできません。
インフルエンザの予防接種、まだしています。
忠岡町の 65歳以上の方の助成(負担金 1000円)は1月 31日で終了です。
以後は通常料金(1回目 3000円、2回目 2500円)になります。
まだ若干ワクチンがありますので、接種ご希望の方は受付までお申し出ください。
日本老年学会と日本老年医学会は、高齢者の定義を
65歳から 75歳に引き上げるよう提言しました。
「高齢者」の厳密な定義はありませんが、国連は1956年の報告書で 65歳以上を高齢人口と定義し、日本も準じていました。
国民年金や介護など社会保障関係の国内法令も、現役世代との区分を 65歳としています。
健康に関するデータの分析から、医療の進歩や生活環境の改善などで、65歳以上の体の状態や知的機能は10 ~ 20年前と比べ 5 ~ 10歳ほど若返っていると考えられています。
分かりやすい例が、1946年から新聞に連載された漫画『サザエさん』のお父さん、波平の年齢設定で、54歳です。
今の平均的な 50代のイメージとは懸け離れていて、中身だけでなく見掛けも若くなっています。
学会は「実態と合わなくなっているという意見は 10年以上前からあって、2013年から 3年かけて、科学的データを基に医者だけでなく心理学や社会学の専門家も交え、国民の意識変化も踏まえて議論した。
その結果、要介護認定率、受療率、死亡率などさまざまなデータを見ても 10 ~ 20年前と比べて 5 ~ 10歳若くなっていた。」と報告しています。
同学会は、65 ~ 74歳を健康で活力がある人が多い「准高齢者」と定義し、仕事やボランティアなどへの参加を促すよう求めた。
75 ~ 89歳は「高齢者」、90歳以上は「超高齢者」と位置づけた。高齢者を 75歳以上とするのは私個人的には納得です。
後期高齢者という言葉が無くなるのでしょうか。
あとは准高齢者が働きやすくなるような社会環境整備が必要ですね。
アメリカの新大統領トランプ氏が就任し、次々と大統領令を発令しています。まさに有言実行。
その行動力には驚きます。
アメリカ大統領の圧倒的な権限にも感服しますね。
今後の動向に目がはなせません。
オバマ前大統領の功績否定をめざすトランプ氏。
オバマケアの撤廃とがんや幹細胞など生命科学にも矛先が向いているようです。
また、気になるのはトランプ氏は反ワクチン運動の味方で、3種混合ワクチンが自閉症を誘発することを認める政治家であると伝えるニュースです。
ワクチンについては、私は肯定派なので、これはやめてほしいな。今後の発言をフォローしたいです。
2月 19日は泉州マラソンです。
無謀にもエントリーしています。
昨年 8月の手術の影響で、今回の走行距離はあまり多くありません。
今から調整して、どこまでいけるか?
目標は、大きなことは言いません。
制限時間の 5時間以内完走です。
忠岡町付近では群衆に紛れて、見つからないようにしたいと考えています。
ちょっと先ですが、3月 18日土曜日、休診にさせていただきます。
朝から泉大津市立病院の緩和ケア講習会にファシリテーター(集団学習での進行役かな?)を務めてきます。
昨年度末からノロウィルス感染症が猛威をふるいました。症状は嘔吐、下痢です。
今回は下痢について考察してみます。
下痢は便秘と並ぶ排便症状の1つです。
全身状態や日常の生活に大きな影響を及ぼします。
水様の便が排泄される症状であり,教科書的には排便回数にかかわらず,1日の便重量(水分含有量)が200 ml以上である状態と定義されます。
また、別の定義では、水分量が70~80パーセントの便を「軟便」、80パーセント以上の液状の便を「下痢」といいます。
通常の便の水分量は50-60%です。
しかし実際に排便の重量を計ることはないため、1日3回以上の相当量の水様便があれば臨床的には下痢と考えてよいでしょう。
便の性状の分類で国際的に広く使われているのが、ブリストルスケールです。
4が理想的な便で、5が軟便、6が泥状便、7が下痢となります。
小腸に流入する1日の水分は、経口摂取の水分量2L、唾液量1L、胃液量2L、膵液量2L、胆汁1Lで、その他腸液が1L分泌されます。
計9-10Lというところでしょうか。
回盲部(小腸と大腸の境目)を通過する水分量は.5~2Lであるので、小腸で7~8Lの水分が吸収され、さらに大腸で1.5L程度が吸収されます。
浸透圧性下痢・分泌性下痢・滲出性下痢・腸管運動異常性下痢に分類されます。
小腸で吸収されない高浸透圧物質(マグネシウム、アルコールなど)により,水分の吸収が阻害されたり、腸管内へ喪失したりすることによって引き起こされる下痢です。
食中毒など毒素による小腸粘膜の障害やホルモンの影響で、腸液が過剰に腸管内へ分泌されることによって引き起こされる下痢です。
炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン)などで大腸粘膜からの分泌物の増加と大腸粘膜による水分吸収機能の低下によって引き起こされる下痢です。
腸管運動の亢進(甲状腺機能亢進)や低下(糖尿病、アミロイドーシスなど)による腸内細菌の異常な増殖、胆汁酸や脂肪酸の変性によって引き起こされる下痢です。
それぞれ単独で起こることは少なく、いろんな病態が混じっています。
臨床における実践的な下痢の評価としては、急性下痢症と慢性下痢症に分類する方法が実用的です。
また、下痢の継続期間が2週間以上となる場合は持続性下痢、1か月以上となる場合は慢性下痢と定義されます。
非感染性の場合、アルコール多飲、暴飲暴食、アレルギー、牛乳(乳糖不耐症)、下剤など薬剤が原因であることが多いです。急性下痢症の主な原因は感染性腸炎です。細菌とウィルスが原因です。
サルモネラ菌、赤痢菌、カンピロバクター、クロストリジウム、病原性大腸菌、黄色ブドウ球菌などの細菌性腸炎、ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスなどのウイルス性腸炎が下痢を引き起こします。
細菌とウィルスの違い:DNAとRNAを両方持っているのが細菌。
DNAかRNAのどちらかひとつしか持っていないのがウィルスです。抗生物質が効くのが細菌。
ウィルスには抗生物質は効きません。
細菌性腸炎では発熱を伴う重症な下痢になりやすいことが特徴です。
血性下痢の場合は,O157腸管出血性大腸菌が原因菌であることが多いものの、サルモネラ菌や赤痢菌,カンピロバクターによる大腸炎でも血性下痢となることがあります。
ウイルス性腸炎による下痢では水様便がみられますが、比較的軽症で,自然に消退する場合が多いです。急性下痢症の診断の手がかりを得るためには,問
診が重要です。
1.下痢の回数、2.便の性状(外観、量、臭気、出血)、3.発症形式(急性、慢性)、4.経過(進行、増悪・寛解)、5.発症と食事との関連、6.増悪あるいは寛解因子(食事、服薬)、7.随伴症状(悪心・嘔吐、腹痛、発熱、便意の変化、体重減少)の有無、8.生活歴(海外渡航歴、職歴、飲酒歴)、9.薬物服用(下剤、鎮静剤、抗生物質)、10.既往歴(開腹手術、アレルギー疾患、膠原病、尿毒症、糖尿病、甲状腺機能亢進症など)、11.集団発生の有無などについてお聞きします。
食中毒が疑われる場合は経過時間が大事です。疑わしい食事から6時間以内に発症した場合は、ブドウ球菌毒素による食中毒(吐気、嘔吐を伴う)、8 ~ 16時 間 で は ウ ェ ル シ ュ 菌(Clostridiumperfringens)感染、16時間以上の場合はウイルス性腸炎や病原性大腸菌など、他の細菌性腸炎など生肉(特に鶏肉)摂取から5-6日経過後はカンピロバクター感染症を疑います。
抗生物質の最近の服用歴がある場合は、偽膜性腸炎・Clostridium difficile感染を考えないといけません。
服薬歴に刺激性下剤の常用、抗癌剤が含まれる場合は、薬剤の副作用を疑います。
急性下痢症に対する検査として、重症例や数日間の対症療法でも改善がみられない場合に、血液・生化学検査、便培養を行います。
大腸内視鏡検査は、急性下痢症の患者の多くは必要としませんが、炎症性腸疾患や偽膜性大腸炎が疑われる場合や免疫抑制状態の患者では、早めに行うことが大切です。
感染性腸炎による急性下痢症の治療では、初期治療として脱水治療を行います。軽度の腸炎の場合は、脱水に対する治療だけで軽快することが多いです。細菌性の腸炎が疑われる場合、便培養で診断できた場合は抗生剤を処方します。
一般に細菌性下痢・出血性大腸炎では止瀉薬(下痢止め)の使用はなるべく控えるようにします。悪いものは出してしまった方がいい、という考えです。日本では、整腸剤が処方されることが多いです。
一方、慢性下痢症は1か月以上持続する下痢症で、原因の多くは過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、生活習慣、腸管外の器質的疾患です。
1.炎症性腸疾患
炎症性腸疾患とは消化管の慢性炎症を繰り返す原因不明の難治性疾患であり、潰瘍性大腸炎とクローン病の2つの疾患を指します。
確定診断のためには、大腸内視鏡検査や消化管造影検査(注腸、小腸造影)が必要です。
2.過敏性腸症候群
過敏性腸症候群は器質的な異常が無いにも関わらず、便通異常(便秘,下痢)とそれに伴う腹痛や腹部不快感を訴える機能的消化器疾患の症候群です。こちらも大腸内視鏡が必須です。
ストレスの関与が大きいとされます。
内容が多いので、慢性下痢については、機会を改めて書くことにします。
最後に今シーズン猛威をふるったノロウィルス感染症について追加の説明をします。
年末に流行して、いったんはおさまったのですが、また一月に流行の報告があります。
主に二枚貝(アサリ、牡蠣など)から感染します。
感染力が強いので、貝類を食べるより、周りの人からうつることが多いです。
潜伏期は1-2日、嘔吐下痢で発症します。
1-2日の症状のあと軽快していきますが、高齢者・子供の場合は脱水になって、入院・点滴治療が必要となることもあります。ノロウィルスには迅速診断キットがあって、便を少量とって試薬に浸すと検出できます。しかし、高齢者、子供、免疫抑制剤使用者などしか保険が効きません。
理由は、特にノロとわかっても特別な治療法があるわけではなく、水分をとって安静にしていれば、一日二日で軽快することが多いので、どうしても診断をつけないといけないということはないと考えられているからです。子供、高齢者は脱水対策をしないといけないかもしれないので、保健適応になっています。
ちなみに当院も、以前は診断キットを置いていましたが、今は置いていません。
どうしてもノロ感染症かどうか知りたいという人は病院を紹介しています。でも、自費ですので、7000円くらいかかると思います。
今回は下痢・特に急性の下痢について概説しました。脱水にならないように注意。
血便、嘔吐で水も飲めない、腹痛が強い、熱が高いなどは病院での治療が必要です。
それ以外は少しずつ水分を何回にもわけてとって、嵐の過ぎるのを待つしかありません。
最近の医療は病気の診療だけではなく、病気の予防、早期発見、初期治療に重点が置かれています。
そのためには、「かかりつけ医」として日常的に気軽に診療や健康診断を受けることができる医院を目指すことが大切だと考えます。
当院では「かかりつけ患者」として下記に同意していただける方を募集しています。興味がございましたらスタッフまでお尋ねください。
慢性疾患をお持ちで、月に一度は当院に定期的に受診される方のうち、下記の項目に同意していただける方です。
以上を納得され、書面にサインしていただける方を当院のかかりつけ患者として登録させていただきます。
現在のところ、何かあれば当院に受診される方、住民検診などを当院で受ける方はかかりつけ患者の範疇にはいれていません。風邪をひいたら、今回はあそこの診療所、次回は○○病院という方もご遠慮いただいています。
かかりつけ患者になって総合的に管理してほしいと思われた方がいらっしゃいましたらお気軽にスタッフまでお声をおかけ下さい。
今年度も月一回の院内報は続けます。
1 月、院内報を書かないと思い立ったのは第 4 週でした。
次回は 2 月 20 日に発行します。
医療記事のテーマは今回の急性の下痢に引き続いて慢性の下痢、か自測自健にします。
これが決まっていれば早いはず。