2015年 4月 No.113
ホームドクター通信

◆当院からのお知らせ

4月になりました。
4月に入っても、1月並みに寒い日があったり、初夏を思わせる暖かい日があったり、と寒暖の差がまだ大きいですが、もう春です。今年の桜は、咲くのが早く、満開になった次の日には冷たい雨風が吹き荒れるという状況で、なかなか花見もしづらかったです。
一日だけ、訪問診療に行く途中で桜が道の両サイドから咲いて、桜のトンネルを車で通りぬけることができたのが、私の今年の唯一の花見でした。

インフルエンザは下火になってきたようですが、4月に入ってもB型インフルエンザが散見されます。まだ注意は必要。
このまま終息してくれるのを期待しています。
インフルエンザの予防接種は終了しています。
岸和田市で期限切れの予防接種をしてしまった、とのニュースがありました。
当院は今までそのようなことはありませんが、気を付けないといけません。接種までに二重・三重のチェックを心がけます。

住民健診が3月末で一旦終了しています。次年度の住民(特定)健診は5月18日からとのことです。
今年度は特定健診は無料になるようです(昨年までは500円)。是非、この機会に血液検査など受診してください。

シダトレン

スギ花粉は今結構飛んでいます。スギ花粉の舌下免疫療法、6月から始めようと思います。スギ花粉アレルギーの方は是非ご検討ください。

線虫によるがん診断

尿1滴で早期がんの診断を可能にする技術を開発−九大線虫の嗅覚を用いて高精度にがんの有無を識別

九州大学は3月12日、線虫によってがんの有無を高度に識別できることを発見したと発表しました。
線虫は回虫などの仲間で体長は約1ミリメートル。
ウナギのような形をしています。
マウスなどと並んで実験によく使われます。
線虫はにおいをかぎ分ける能力が高く、嗅覚の鋭さで知られる犬並みとのこと。

がん患者には特有の匂いがあることが臨床現場では知られており、犬を用いてがんを診断しようという試みが進んでいます。しかし、がん探知犬の能力は集中力に左右されるため、1日5検体ほどしか調べることができず、実用化が困難であるのが現状でした。

そこで同研究グループは、嗅覚受容体を犬と同等の約1,200種有する線虫「C.elegans」に着目。
がん患者の尿20検体、健常者の尿10検体について線虫の反応を調べたところ、全てのがん患者の尿には誘引行動を、反対に全ての健常者の尿には忌避行動を示すことがわかりました。

短時間で安価、高精度に早期がんを診断

線虫の嗅覚を用いたこの検査は、苦痛がなく、簡便であること、また結果が出るまでに1時間半と早く、安価にできるのがメリット。
また、これまでに調べた十数種全てのがんを一度に検出することも可能で、その中には、従来の検査では早期発見が難しかった膵臓がんも含まれるといいます。
実験でがんと判別された人の中には、採尿時点でがんの発症が分かっていなかった5人もいました。
通常の検査では分からなかったがんを線虫が見分けていたことになり、早期がんの発見にも威力を発揮できると期待されています。

研究グループは、この技術(n-nose)が実用化されれば、尿1滴でさまざまな早期がんを短時間に安価に(数百円)高精度に(約95%)検出できるようになるとしている。
これは早期の実用化が望まれます。画期的なかなりいい研究かと思いますが、よく思いつきましたね。
今はPET-CTでのがん早期発見がされていますが、発見のためだけでは保険が適用されず、約10万円の費用がかかってしまいました。また、胃・大腸の検出率が弱かったのも問題でした。研究グループは10年後をめどに実用化したいと話しています。期待したいです。

ゴールデンウィーク、病院は暦通りに休みになります。
休み中に薬がなくなることのないよう、こちらも気をつけますが、皆様もご注意ください。

◆喉頭がん

シャ乱Qのボーカルで、モーニング娘。などの音楽プロデューサーであったつんく♂さんが喉頭がんのため、声帯を摘出されました。
4月4日に母校である近畿大学の入学式に出席され、壇上に立ったつんく♂さんは「一番大事にしてきた声を捨て、生きる道を選びました」というメッセージをスクリーンに流し、声帯を摘出したことを明らかにしました。
結構インパクトのある映像でした。
つんく♂さんの声を奪った喉頭がんとは、どんな病気なのでしょうか。

のどの構造:咽頭と喉頭

口・鼻から入った空気は喉を通り、声帯から気管、気管支・肺に入ります。
一方口から入った食物は同じく喉を通り、食道・胃へと運ばれます。
おおざっぱにいうと、喉での食事の通り道を咽頭、空気の通り道を喉頭といいます。
喉頭は咽頭の前にあります。
喉頭とはいわゆる「のどぼとけ」のことで、食道と気道が分離する個所に気道の安全装置(誤嚥防止)として発生した器官です。
のどぼとけは喉の前に触れることができますね。
役目のひとつは気道の確保です。
口と肺を結ぶ空気の通路で、飲食物が肺に入らないよう調節(誤嚥防止)します。
喉頭のもうひとつは発声です。喉頭のなかには発声に必要な声帯があります。
声帯は閉じたり開いたりして、気管への異物混入をしないようにしたり、声を出したりします。

喉頭がんの疫学

喉頭がんは年齢では60歳以上に発病のピークがあり、発生率は10万人に3人程度です。
男女比は10:1で圧倒的に男性に多いという特徴があります。
危険因子としてはタバコとお酒です。
これらの継続的刺激が発がんに関与するといわれており、喉頭がんの方の喫煙率は90%以上、またアルコールの多飲が声門上がんの発生に関与すると言われています。

喉頭がんの症状

発生部位により最初の症状は異なります。
声帯にできたがんではほぼすべての方に嗄声(させい、声がれ)がみられます。
良性の声帯ポリープでも、嗄声はあります。
1ヶ月以上嗄声が続く場合は検査していただいたほうがよろしいかと思います。
進行してくると痰に血がまざったり、呼吸が苦しくなってきます。
声帯より上のがんの早期の症状は喉の異物感(部位が一定している)や、食事の時、特に固形物や刺激物を飲み込んだ時痛みが出現したりします。
声帯より下にできるがんは進行するまで症状がでない事が多く、進行するとやはり嗄声や呼吸苦が出てきます。
このように喉頭がんといってもその部位によって症状の現れ方にはちがいがでてきます。

診断

耳鼻咽喉科では、喉頭鏡、または細いファイバースコープを鼻から挿入して喉頭を観察します。
喉頭がんが疑われると小さく腫瘍の一部を取ってきて組織診断(生険)をします。
外来でファイバースコープ下に施行する施設と、入院して全身麻酔下に施行する施設があります。
普通約1週間でがんかどうかの確認ができ、組織型の診断結果がでます。
診断がつけば、CTやMRI、超音波(エコー)など施行し、最終的に腫瘍の進行度と頸部リンパ節転移の有無と遠隔転移の有無を評価して病期を決めます。

病期

瘍の進行度は腫瘍の大きさ、頸部リンパ節転移の有無、遠隔転移があるかどうかを評価され、病気分類が行われます。
病期はTUVWの4段階に分類します。
T期から進行するにつれW期へと分類しますが、普通T、U期は早期、V、W期は進行がんと評価されています。

治療

喉頭(原発)の治療は放射線、手術が中心となります。
放射線は早期がんの治療の中心となります。喉頭はそのままの形で残りますので声も一番自然の声が残ります。
ただし進行したボリュームのあるがんや、その部位によっては効果に限界があります。
またまわりの正常組織に障害を残さずかけられる量にも限界があり何回もかけるわけにはいきません。
進行がんでも場合によっては喉頭の温存の可能性を探るため行われることもあります。
手術には大きく分け喉頭部切術と喉頭全摘術があります。
施設によってはレーザー手術を早期がんの中心の治療としている所もあります。
喉頭部分切除術は早期がんに行われ、声帯を一部残す手術です。質は多少悪くなりますが声をのこすことができます。
喉頭全摘術は部分切除の適応を逸脱した早期がんや進行がんにおこなわれ声はうしなわれます。
永久の気管切開孔が喉の前に出ます。
抗がん剤は喉頭を温存するため放射線や手術と組み合わせて使われたり、手術不可能な時、放射線治療後の再発などの時使われたりします。

一般に早期がんでは放射線を第一選択にその効果をみて手術を組み合わせていきます。
声を残せるかどうかの判断が重要になってきます。進行がんでは手術が中心となり場合により放射線、抗がん剤を組み合わせていきます。頸部リンパ節転移に対しては手術が中心となります。これらの治療法はがんの進行度や部位だけでなく患者さんの年齢、全身状態、職業、社会的条件なども考慮にいれたうえで最終的に選択されます。

生存率

がんの発生した部位で多少違ってきますが、T期では80〜90%放射線で治り T〜W期では65〜70%の5年生存率です。
これはすべてのがんのなかでも高い治療成績でではあるものの発声機能を保存できる確率は必ずしも高くなく喉頭全摘となる例が多いのが実際です。
生存率を落とすことなく放射線、喉頭部切、放射線と抗がん剤の併用療法など発声機能を残した治療を選択する見極めが重要と考えられます。
また進行がんでも相当に進行したがんに対しても生存率をあげる治療法を選択できるよう専門家は努力されています。

喉頭がんを治療しなかった人
立川談志さんは1998年に食道がんの手術を受けています。
2008年には喉頭がんも患ったようですが、唯一の根治手段とされた喉頭摘出を拒否し、放射線治療などの保存的治療をうけたようです。
忌野清志朗さんは2006年に喉頭がんを患われていますが現代の標準治療である化学放射線療法を拒み、2年後に再発、2年10ヵ月後に亡くなられています。
お二人とも喉頭摘出を拒否(忌野さんは放射線治療も拒否)したために治癒のチャンスを失ったといえます。
話芸や歌を生業とする方々ですから、喉頭摘出と言う自らのアイデンティティを崩す治療は受けいれられなかったのでしょう。
それは個人の美学を貫いたという点では、賞賛されることかもしれません。
ただ「彼らのような選択をするのが良い」というわけないと思います。
個人個人で何が大事なのかを考える必要があります。
私なら、つんく♂さんと同じで、voice よりlife ですね。

永久気管孔で、声がでなくなった場合、。声帯を全部摘出すると声は出なくなりますが、「食道発声」の訓練をすれば再び会話ができるようになります。ほかにも、電動式人工喉頭(こうとう)という器具を首に当てる方法や、「シャント手術」と呼ばれる手術を行って首に器具を装着する方法があります。
ただそれぞれ、使用時に片手がふさがってしまう、器具の取り換え費用がかかるというデメリットがあり、日本では「食道発声」が一般的です。つんく♂さんもこれから練習されるようです。
また、まだあまり一般的ではないですが、VOCALOID2という技術があります。
初音ミクというソフトで使用されるもので、「録音された人間の声を元に、コンピューター処理をして、キーボードを使って音声をだす技術です。まだ一般的ではありませんが、自分の声をサンプリングしておけば、パソコンのキーボードをたたけば自分の声がスピーカーからでてくるというのも近い将来実現可能かもしれません。

声枯れ、喉の痛みなど諸症状で思い当たる節があった場合など、がんについての疑問・不安をお持ちの方は、お気軽にご相談ください。
当院でも細い内視鏡での喉頭観察は可能ですし、必要に応じて専門家をご紹介します。

◆かかりつけ患者さん募集中

最近の医療は病気の診療だけではなく、病気の予防、早期発見、初期治療に重点が置かれています。
そのためには、「かかりつけ医」として日常的に気軽に診療や健康診断を受けることができる医院を目指すことが大切だと考えます。
当院では「かかりつけ患者」として下記に同意していただける方を募集しています。興味がございましたらスタッフまでお尋ねください。

何をしてくれるの?

かかりつけ患者になるには?

慢性疾患をお持ちで、月に一度は当院に定期的に受診される方のうち、下記の項目に同意していただける方です。

以上を納得され、書面にサインしていただける方を当院のかかりつけ患者として登録させていただきます。

現在のところ、何かあれば当院に受診される方、住民検診などを当院で受ける方はかかりつけ患者の範疇にはいれていません。風邪をひいたら、今回はあそこの診療所、次回は○○病院という方もご遠慮いただいています。

かかりつけ患者になって総合的に管理してほしいと思われた方がいらっしゃいましたらお気軽にスタッフまでお声をおかけ下さい。

◆編集後記

お知らせ
水曜日、夜診、正式に休診として、保健所に届けて受理されました。
まだ診察券とか、HPとか、看板には不備がありますが、徐々に変更していきます。
ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。