2015年 1月 No.110
ホームドクター通信

◆当院からのお知らせ

明けましておめでとうございます。皆様、よい新年をお迎えのことと思います。
今年もよろしくお願い申し上げます。

インフルエンザ

インフルエンザが猛威をふるっています。
2014年 第52週 (12月22日〜12月28日) 2015年1月6日現在の厚生労働省・国立感染症研究所の報告では、2014/2015年シーズンのインフルエンザの報告数は2014年第42週以降増加が続いているとのことです。
2014年第52週の全国の医療機関を、受診した患者数を推計すると約138万人となり、前週の推計値(約72万人)よりも増加しました。また、2014年第36週以降これまでの累積の推計受診者数は約279万人となっています。
 国内のインフルエンザウイルスの検出状況をみると、直近の5週間(2014年第48週〜第52週)ではAH3亜型の検出割合が最も多く、次いでB型、AH1pdm09の順となっています。
いつも書いていますが、予防につとめてください。
飛沫感染予防:人混みを避ける、うがい、マスクをする
接触感染予防:手洗いが一番です。
適度な湿気、温度:ウィルスは寒くて、乾燥しているほうが活発になります。栄養、睡眠を十分とり、疲れないようにする。あとは予防接種を受けることくらいでしょうか。
忠岡町のインフルエンザ予防接種は一月末までできます。
ご希望の方はお早めに。予防接種を打っても感染した、というケースもあります。重症化を防いでくれる、かかりにくくなる予防接種と認識していますので、お勧めはしています。

昨年の医療ニュースの中で一番興味があり、注目していたのは、前号でも書きましたが、STAP細胞でした。
12月の院内報を出した直後に検証実験結果が発表され、STAP細胞は再現できなかった、との報道がありました。
更に、今年に入って小保方氏が不服申し立てをしなかったために、不正が確定、とのニュースがありました。
誠にもって残念な結果でした。これで終わりなんでしょうか。民間で小保方さんを雇用して、再度実験してもらう、という企業または研究所は無いかな。

これも昨年の医療ニュースです。大阪大病院で「脱細胞化」技術で国内初の心臓人工弁移植というニュースがでていました。実は私は昭和60年1月から6月末まで半年間ですが、まだ大阪市の福島にあった大阪大学の第一外科で研修を受けています。心臓の術後管理は結構大変でした。
そういう過去もあることから、興味をもってこのニュースみてみました。平成26年10月16日に心臓病の30代の男性患者に、別の人の心臓弁からつくった人工弁を移植する手術を行い、成功したとのことです。
弁の劣化を遅らせるために弁から細胞を取り除き、「脱細胞化」と呼ばれる技術を使った日本初の手術。経過は良好で退院されています。
患者は心臓病の一種「ファロー四徴症」により、2歳のときに阪大で手術を受けた男性会社員(35)でした。ということは、33年前、昭和56年ですか。私が研修する4年前にファローの手術を受けられた方ですね。
当時の川島教授はファローの手術を得意とされていました。
この患者さんは肺動脈弁の劣化で、心臓に血液が逆流しやすい状態になっていたとのこと。
今回使われた人工弁は、亡くなった人から提供を受けた新鮮な肺動脈弁から細胞を取り除き、薬剤処理などをせずに手術に用いたそうです。脱細胞化を調べてみますと、組織の物理的、ないしは化学的脱細胞により、 細胞および抗原性の成分を除去することだそうです。
実際の処理法は、初めにタンパクの構造に影響を与えない界面活性剤で処理する。
次いで核酸を除去するためにエンドヌクレアーゼが使用するとのことです。
つまりは組織内のコラーゲンなどは変性させず、弁の機能は保ったまま保存、移植されるようです。
また、機械を使った従来の人工弁では、血液の凝固を防ぐ薬の服用が必要ですが、今回の手術では不要という。
執刀チームの阪大心臓血管外科、澤芳樹教授は「1回の手術で済み、従来の弁より有効となる可能性がある」と話しています。
今でも生体弁あり、ウシとか豚の弁が使われています。今後はヒト人工弁が主流になるかもしれませんね。
実用化に期待したいです。

平成27年2月21日、泉大津市民会館で泉大津市医師会主催の市民公開講座を行います。今回は認知症を扱います。認知症サポーター研修を兼ねていますので、受講されたら認知症サポーターの証のオレンジリングが授与されます。前回の市民公開講座は忠岡町の方は断られた、というご報告を受けまして、今回は泉大津の包括に申し立てをしています。忠岡町の方もお気軽に参加してください。

水曜日、夜診、正式に休診として、保健所に届けて受理されました。
まだ診察券とか、HPとか、看板には不備がありますが、徐々に変更していきます。

2月10日の夜診は都合により休診とさせていただきます。
ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。

◆一過性脳虚血発作

今回は一過性脳虚血発作をとりあげます。
あまり聞きなれない病名かもしれません。
全国の20〜70代の一般男女10,000人に行ったアンケート調査では、「脳梗塞」がどういうものか説明できる人は、全体の約7割であったのに対し、「一過性脳虚血発作」を知っていた人はわずか2 割弱だったとのことです。医療従事者の間では一過性脳虚血発作は「TIA(ティーアイエー)」とよばれています。transient[一過性の]ischemic[血流が乏しくなる]attack[発作]の英語の略称です。
この発作は、脳の一部の血液の流れが一時的に悪くなることで、半身の運動まひなどの症状が現れ、24時間以内(多くは数分から数十分)に完全に消えてしまうものです。
脳細胞に栄養を与えている脳の動脈が詰まり、症状が現れますが、脳細胞が死んでしまう前に血液の流れが再びよくなるため、脳細胞が元の機能を回復し、症状も消失します。
脳の血液の流れが悪い状態が続くと脳細胞は死んでしまい、運動麻痺などの症状も残ってしまいます。この状態が「脳梗塞」です。
心臓の病気では、心臓を栄養する冠動脈が完全に詰まってしまえば心筋梗塞、一度詰まって再開通する病態が狭心症です。
一過性脳虚血発作は心臓での狭心症に該当する病態といえます。

一過性脳虚血発作が疑われる症状は?
この発作の症状は、脳の動脈の詰まる場所によってさまざまです。
典型的な場合、片側の手足や顔の麻痺などの運動障害、片側の手足や顔のしびれや感じ方が鈍くなるなどの感覚障害が突然出現します。
脳血管の異常による運動障害や感覚障害は、ほとんどが片側に起こります。また、ろれつが回らなかったり、言葉が出なかったりする言語障害が出現することもあります。
眼動脈が詰まれば、片方の目が見えにくくなる視力障害(一過性黒内障)がおこります。
片側にあるものが見えなくなる視野障害(同名半盲)なども主な症状のひとつです。

一過性脳虚血発作の症状は、多くの場合、病院を受診した時点では消えていますので、医師はその症状を実際には診察で確認することができません。
医師が一過性脳虚血発作かどうかを判断する一つの重要な材料は、一過性の症状についての本人、もしくは周りにいた人からの問診のみです。
例えば運動麻痺であれば「どこの部位に生じたのか」「麻痺がどの程度であったのか」「症状が何分くらい続いたのか」などをできるだけ正確に伝えることができるように、できればメモをしておきましょう。

一過性脳虚血発作後に脳梗塞を起こす危険度は、患者さんそれぞれによって異なります。
ABCD2 スコアは、一過性脳虚血発作後に脳梗塞を早期に起こす危険性を予測する指標として開発されました。
各項目の点数を合計したスコア(0〜7点)が高いほど、一過性脳虚血発作後、早期に脳梗塞を起こす危険性が高いとされています。
特にスコア3〜4点以上は要注意ですので、知っておくとよいでしょう。

ABCD2 スコア

病院を受診されたら、脳MRI、頸動脈エコー、心電図、心エコー、血液検査が行われて、一過性脳虚血発作の原因を推定し、脳梗塞への移行リスク判定をして治療を選択します。
原因として多いのが、動脈硬化と心臓の不整脈・心房細動による血栓です。
動脈硬化の場合、考えられるのが、比較的太い動脈(特に頸部の頸動脈)に動脈硬化が起こると、その表面に血栓が付着します。
この血栓がはがれ、血流にのって、より先の動脈に引っかかると麻痺などの症状が出現します。
血栓が小さい場合は、すぐに溶けて流れ去ってしまうため、血流が回復して症状も消えてしまいます。
また、もう一つの起こり方として、動脈硬化によって非常に狭くなった脳の動脈がある場合は、急に血圧が下がるなど脳の血流がさらに悪くなったときに症状が出現します。
頭を低くして休むなどして、再び脳の血流が回復すると症状は改善します。
心臓の場合は、心房細動により、心臓の中に血の塊(血栓)ができ、その血栓が心臓から動脈に乗って移動して、脳の細い動脈につまることで脳虚血発作をおこします。

治療は内科的治療と外科的治療があります。

内科的治療

この発作に対して、短期的もしくは長期的に脳梗塞発症を予防するための内科的治療(薬物治療)は、抗血栓薬による治療(血液をサラサラにして血栓ができるのを予防する治療)と、高血圧、糖尿病、脂質異常症など動脈硬化の原因となる生活習慣病の治療が中心となります。

抗血栓薬は「抗血小板薬」と「抗凝固薬」に分けられ、一過性脳虚血発作の原因によって使い分けられます。
頸動脈や頭の中の動脈の動脈硬化が原因となる一過性脳虚血発作では、抗血小板薬としてアスピリン、プラビックス、プレタールなどを、病状に合わせて、使い分けたり併用したりします。

一方、心房細動など心臓に由来している場合は、ワーファリンなどの抗凝固薬を使用します。
抗凝固薬によって心臓の中に血栓ができるのを防ぎ、脳梗塞を予防します。

以前はワーファリンしかありませんでした。
ワルファリンは予防効果の高い薬ですが、食事(納豆、青汁など)や他の薬剤の影響を受けやすく、血液検査で内服量を常に調節しなければならない煩わしい面もありました。

最近では、これらの短所を改善したプラザキサやイグザレルトという新しい薬が発売され、抗凝固薬の選択肢が増えました。

外科的治療

一過性脳虚血発作の原因が、動脈硬化で、狭くなった頸部の頸動脈である場合は、脳梗塞の発症予防を目的に外科的治療をすることがあります。
手術で直接頸動脈を広げる場合と血管内治療でステントで血管を中から広げる治療があります。「バイパス手術」を行うこともあります。

一過性脳虚血発作、脳梗塞を起こさないために

一過性脳虚血発作や脳梗塞の主な要因は、高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙を4 大要因とする動脈硬化と、心房細動(不整脈)です。

一過性脳虚血発作や脳梗塞を予防するには、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病をしっかり治療すること、禁煙すること、そして心房細動に対して早いうちに対処することが鍵となります。
症状が短時間で消えてしまう一過性脳虚血発作ですが、放置は危険です。できるだけ早い時期に病院に行くことをお勧めします。
以前は、医師の間でも一過性脳虚血発作は緊急を要する病気であるとは認識されていませんでした。

しかし、一過性脳虚血発作を治療しないで放っておくと、3か月以内に15〜20%の方が脳梗塞を発症し、そのうち半数は一過性脳虚血発作を起こしてから数日以内(特に48時間以内が危ない)に脳梗塞になることが報告されました。

さらに、一過性脳虚血発作後、速やかに病院を受診し、検査・治療を始めれば、その後の脳梗塞発症の危険を減らせることも、いろいろな研究からわかってきました。

これらの事実から、一過性脳虚血発作は脳梗塞の重要な「前触れ発作」「警告発作」であり、早期受診、早期治療が必要な緊急疾患であるという認識に現在では変わってきています。

一過性脳虚血発作という軽い一時的な症状で始まる方は、運が良いのかもしれません。
脳梗塞にならないように対処できる絶好の機会だからです。
「気のせい」などとは思わずに、ためらわずにすぐ病院に受診することが必要です。

当院かかりつけの方は病院を紹介しますので、該当する症状があれば是非早めにお申し出ください。

ためらわずにすぐ病院に

◆かかりつけ患者さん募集中

最近の医療は病気の診療だけではなく、病気の予防、早期発見、初期治療に重点が置かれています。
そのためには、「かかりつけ医」として日常的に気軽に診療や健康診断を受けることができる医院を目指すことが大切だと考えます。
当院では「かかりつけ患者」として下記に同意していただける方を募集しています。興味がございましたらスタッフまでお尋ねください。

何をしてくれるの?

かかりつけ患者になるには?

慢性疾患をお持ちで、月に一度は当院に定期的に受診される方のうち、下記の項目に同意していただける方です。

以上を納得され、書面にサインしていただける方を当院のかかりつけ患者として登録させていただきます。

現在のところ、何かあれば当院に受診される方、住民検診などを当院で受ける方はかかりつけ患者の範疇にはいれていません。風邪をひいたら、今回はあそこの診療所、次回は○○病院という方もご遠慮いただいています。

かかりつけ患者になって総合的に管理してほしいと思われた方がいらっしゃいましたらお気軽にスタッフまでお声をおかけ下さい。

◆編集後記

1月の院内報、5日発行を予定していたのですが、少しまた遅れてしまいました。
また2月は第一週に発行できるようにします。