2014年 9月 No.106
ホームドクター通信

◆当院からのお知らせ

残暑お見舞い申し上げます。8月も終わります。朝夕、少しひんやりとしてきており、秋の気配を感じます。
夏生まれで、夏が好きな私としては寂しいかぎりです。
今これを書いているのが8月31日で、私にとっては8月31日が一年のうちで一番嫌いな日です。
高校生時代、宿題の追い込みでほとんど徹夜していました。
小学生、中学生の初めまでは夏休みの宿題は7月中に終わらせていて、8月は余裕で遊んでいました。
高校に入ったくらいから、どうも先送りの癖がついたようです。
今に引きずっています。なんとか仕事の早い人になろうと試みてはいるのですが。書類はたまる一方です。

今年の夏は冷夏、というほどではありませんでしたが、大阪市では35℃を超える猛暑日というのが無かったそうで、昨年よりは過ごしやすかったようです。
しかし、日中はまだ暑いと感じる日が多いです。
寒暖の差が大きいので、体調管理には十分御留意ください。
寒暖の差が大きくなり体調を崩しやすく、風邪など引きやすくなります。暑さ寒さに合わせての服の増減や規則正しい生活、十分な睡眠などを心がけてください。

夏季休暇
8月15日から18日まで夏季休暇を頂いて、7年連続で生まれ故郷の三重県熊野市での花火を見に行ってきました。
もう私の家族の恒例行事となっています。前日、当日の朝に雨が降り、天気が心配されましたが、午前中に早々と花火開催宣言がされていました。予報通り夜には晴れ、無事開催されました。世界遺産鬼ヶ城と七里御浜を舞台にした三尺玉海上自爆や鬼ヶ城大仕掛けなど「音と光の饗宴」を堪能できました。フィナーレを飾る「鬼ヶ城大仕掛け」は、国の名勝天然記念物でもある鬼ヶ城という岩場や洞窟を利用して仕掛花火を行います。
熊野大花火熊野大花火 鬼ヶ城の岩場に、8号から二尺玉までの花火玉を直に置いてそのまま爆発させる大迫力の「鬼ヶ城大自爆」は、花火玉自爆音や爆風に加えて、岩場での反射音や洞窟での響鳴音も加わり大迫力を演出しています。
爆発した花火は扇状に開き、音と光の衝撃が会場中を震撼させます(熊野大花火のHPより引用)。

本当にその通りで音がお腹に響く、という印象です。でも、それが終わると夏休みが終わってしまうような気がして少し寂しいですが。皆様も機会があれば、是非鑑賞なさってください。来年も8月17日で、家族全員元気であれば、その前後に夏季休暇を頂くことになると思います。
ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。

デング熱とエボラ出血熱
デング熱とエボラ出血熱がニュースをにぎわしています。
いずれも私は診たことはありません。
デング熱はデングウィルスを持った蚊が代々木公園にいるらしく、代々木公園で蚊にさされた人が発症しています。
デング熱は発熱、頭痛、特異な麻疹に似た発疹がでるとのことです。
それほど重症になることはないそうですが、最近日本で発症することはなかったそうなので、注意が必要です。
ヒトか らヒトに直接感染するような病気ではありません。また、感染しても発症しないことも多くみられます。
蚊が媒介する病気でこのニュースが出てから殺虫剤の売れ行きがいいそうです。

一方、現在西アフリカのギニア、リベリア、シエラレオネ、ナイジェリアでエボラ出血熱が発症しています。
感染者が3000人を超え、死者が1500人を超えたそうです。WHOは「公衆衛生上の」緊急事態宣言を全世界へ向け発令しました。
上記流行4か国では国家非常事態宣言が発令されています。

エボラ出血熱は、エボラウイルスによる感染症です。エボラウイルスに感染すると、2〜21日(通常は7〜10日)の潜伏期の後、突然の発熱、頭痛、倦怠感、筋肉痛、咽頭痛等の症状を呈します。次いで、嘔吐、下痢、胸部痛、出血(吐血、下血)等の症状が現れます。現在、エボラ出血熱に対するワクチンや特異的な治療法はないため、患者の症状に応じた治療(対症療法)を行うことになります。
エボラウイルスに感染し、症状が出ている患者の体液等(血液、分泌物、吐物・排泄物)や患者の体液等に汚染された物質(注射針など)に十分な防護なしに触れた際、ウイルスが傷口や粘膜から侵入することで感染します。一般的に、症状のない患者からは感染しません。空気感染もしません。
また、流行地では、エボラウイルスに感染した野生動物(オオコウモリ(果実を餌とする大型のコウモリ)、サル、アンテロープ(ウシ科の動物)等)の死体やその生肉(ブッシュミート)に直接触れた人がエボラウイルスに感染することで、自然界から人間社会にエボラウイルスが持ち込まれていると考えられています。
今回の感染騒動も昨年12月に2歳の子供がコウモリに接触したことにより、端を発せられたと考えられています。その2歳の子供は6日間で死亡しています。その家族、医療従事者から広まったおそれがあります。

WHOは「これまでで最大規模」「悪化の一途」「制御不能」と発表しています。国境なき医師団は「戦争状態だ」との声明を発表しています。不安が広がっています。
未承認の治療薬の投与も考えられているそうで、ある程度は見切り発車でも仕方がなく、沈静化を目指してほしいものです。

現在、ネット予約システム入れ替え中のため、ネット予約が利用できません。 大変ご迷惑をおかけして申し訳ございませんが、 ご予約の際は、お電話お願いします。

◆筋委縮性側索硬化症

ALSアイス・バケツ・チャレンジ

2014年7月より、アメリカを発端として「アイス・バケツ・チャレンジ」というチャリティが大ブームになりました。ニュースで見られた方も多いと思います。
ALS(Amyotrophic Lateral Sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)治療の研究にあてられる資金を集めるために行われたチャリティでした。。
ネットの世界から映画の世界、スポーツ界から政治まで、Ice Bucket Challangeのキャンペーンに賛同した有名人はいったいどれくらいに及んだのでしょうか。
私がニュースで見ただけでも、ビルゲイツ氏、孫正義氏、アマゾンのCEO、フェースブックのCEO、アップルコンピューターのCEOなどIT関係の有名人、iPSの山中伸弥氏、スポーツ界からもネイマール氏など多くの人が参加されていました。

動画の拡散を通して行われ、そのなかで出演者たちはバケツ1杯の凍りつく冷たい水をかぶり、24時間以内に同じことをするように他の人々を指名します。
同時に行われるのが、患者たちの支援を行うアメリカの主要な協会で、キャンペーンを開始したALS協会への100ドルの寄付でした。
わずかな日数の間に、ALS協会に集まった金額は4,000万ドルを超えたそうです。
日本では、8月18日から28日までに日本ALS協会に2387万円のご寄付が寄せられています。昨年度の寄付金総額は約425万円でしたので、今回集まった寄付金はこれを一気に超える額でした。
日本のALS協会では、このイベントが、これまで難病ALSを知らなかった人に関心を持って頂くきっかけになり、 ALSへの理解や支援の輪が広がっていると感じているとのコメントを出しています。

それでは、ALSとはどんな病気なのでしょうか?今回はこれを説明します。ALS 神経ニューロン
身体のどこかを動かしたいという意思は。脳から運動ニューロンを介して筋肉(骨格筋)電気信号のようにしてに伝えられます。
 運動ニューロンには上位運動ニューロンと下位運動ニューロンがあり、大脳皮質の一次運動野にある上位運動ニューロンは軸索を通じて、脳幹や脊髄前角の下位運動ニューロンに信号を送り、下位運動ニューロンは軸索を骨格筋に送って筋肉を収縮させます。
ALSは、運動ニューロン、すなわち神経系を筋肉組織と接続する神経繊維を襲う神経変性疾患で、主に中年以降に発症し、一次運動ニューロン(上位運動ニューロン)と二次運動ニューロン(下位運動ニューロン)が選択的にかつ進行性に変性・消失していく原因不明の疾患です。
アメリカではルー・ゲーリック病と呼ばれています。
ヤンキースでベーブルースなどと一緒に活躍していた著名な野球選手ですが、この病気にかかって連続試合出場が途切れ、引退したとされています。
随分若く発症したようです。
フランスではこの病気の発見者の名前をとってシャルコー病と呼ばれています。
徳洲会の徳田虎雄先生、理論物理学者のホーキンス博士、毛沢東もALSに罹患しており、WikipediaのALSに罹患した著名人に掲載されています。
疫学的には難病情報センターによると、有病率は 人口10万人当たり7〜11人で、本邦では紀伊半島に多発地域があります。
男性が女性に比べて少し発症率が高いようです。
特定疾患医療受給者数によると全国で約9,000人がこの病気に罹患しています。 
50歳未満の発症は少なく、50歳代から発症率が上昇しはじめて、60歳代から70歳台で最も発症率が高く、80歳台では減少傾向となります。

症状は、筋萎縮と筋力低下が主体です。
症状の典型的なパターンとしては、どちらかの足の力がだんだん弱くなってきて、反対側の足に広がり、次に手の力がなくなってくるというものと、手から始まって徐々に足に広がるものがあります。
しかも手足では、からだから遠い部位の筋肉の力がまず弱くなってきて痩せて来ます。そして、そのうちに食物を飲み込みにくくなってくる、しゃべりにくくなってくる、という症状が出てきて、からだ全体の筋肉の力が2-4年くらいで弱くなるために息苦しさを感じるようになります。
さらに進行すると、呼吸が困難になり、人工呼吸器をつけるというのが一般的な経過です。
飲み込みにくい、喋りにくくなる(球麻痺といいます)など喉の症状だけがでるタイプのALSもあります。
病勢の進展は比較的速く、人工呼吸器を用いなければ通常は2〜5年で死亡すると言われています。

診断は難しいです。頸椎の病気と診断され、頸椎の手術をしたにもかかわらず、病状が進行し、のちにALSと診断されたという話もよく聞きます。
神経内科医による神経、筋肉の検査がなされます。
この所見が出ればALSと診断できるサインはありません。

 ALSは全身が動きにくくなる病気ですが、出にくい症状とがあります。
そのうち4つを4大陰性徴候といいます。

  1. 目を動かす筋肉が障害されにくい。
  2. 尿道や肛門をキュッと締める括約筋も筋肉ですが障害は受けにくいです。
  3. いわゆる褥瘡・床ずれが出来にくい。
  4. 知覚障害・感覚障害が起こりにくいことが挙げられます。

すなわち見たり聴いたり、あるいは冷たさや痛さなどを感じる感覚は最後まで残ります。
ですから自分では動けないけれども全て周囲の状況が分かってしまうということで精神的なストレスは大きくなります。

原因がまだ確定されていませんので、予防法も残念ながら、ありません。
喫煙がよくないというのと、緑黄色野菜をよく食べるとなにりくい、と言われています。
家族性ALSはALSの10%程度であり、このおよそ20%がSOD-1という、細胞内のミトコンドリアから生じた活性酸素を無毒化する酵素の遺伝子異常であることが知られています。
このことから、家族性ALSのみならず、弧発性ALSでも、活性酸素を十分に無毒化出来ないことによる「酸化ストレス」が細胞を障害しているのではないか、との考えから発した様々なアプローチがなされました。
ヒト変異SOD1を発現するマウス(SODマウス)は筋力低下と筋萎縮を示して死亡することから、ALSのモデル動物として研究されています。
そのほか、ALSには環境因子の関与、神経栄養物質の欠乏説、グルタミン酸が神経を過剰刺激する、フリーラジカル説などいろいろな原因、誘因が考えられていますが、まだ確定はしていません。

治 療

根治を期待できる治療法は現在ありません。
グルタミン酸が興奮性の神経伝達物質として働き、運動ニューロンを過剰刺激して細胞死を起こすという説(グルタミン酸仮説)があり、グルタミン酸放出抑制剤のリルゾール(商品名リルテック)は進行を遅らせることが確かめられており、健康保険の適用になっています。
他に、メチルコバラミン(ビタミンB12誘導体)超大量療法も試みられることがあるそうです。
対症療法として、呼吸筋麻痺が起こると人工呼吸器を装着する、嚥下障害があると、栄養管理のため胃瘻を造設するなどがあげられます。
私自身は意識障害・知能障害のない所謂頭がしっかりしている患者さんの場合は人工呼吸、胃瘻とも早めにすることをお勧めしています。しかし、患者さんによっては気管切開、人工呼吸は受けないと意思表示されることもあり、その意思表示は当然尊重されます。
でも、嚥下困難から肺炎、窒息になったときにその意思が変わることは勿論許容されます。

iPS細胞の援用による治療の可能性
京都大学iPS細胞のグループはALS患者から採取した皮膚細胞からiPS細胞を作り運動神経の細胞に変化させたところ変性TARDBP-43がという有害な物質が蓄積し神経突起の成長を抑制していることを突き止めました。
ALSのモデル細胞として注目されます。さらにこれに対しアナカルジン酸という化合物を投与すると変性TARDBP-43が減少し、突起の成長が促されることを確認しました。
将来的なALS治療の可能性を示唆する研究と思います。
iPS細胞を用いた研究はALSの治療薬探索や病態解明において期待されています。
研究の進展を期待したいですね。

◆編集後記

毎年、9月の院内報は同じような花火の記事、写真がでてしまってすみません。
私にとっては恒例の夏の一大イベントのため、ご容赦ください。